たまにはピンチもいいじゃないか、ヒロインだもの。
岩場での夜間トレーニング中にアクシデントが起きた。
「あ……あれ?なんか、息が……」
ダイビング中のクーラの様子がおかしい。どこかぼんやりとした様子で、自らのフルフェイスマスクをしきりに触っている。
「まさか、そんな……しっかりしなきゃ……」
頭を振り乱してなんとか意識を保とうとするが、どうにも気だるく、そして異様に眠い。
実は彼女、リブリーザーの起動スイッチを入れ忘れたまま、潜ってしまっていたのだった。浅瀬だったとはいえ、極めて危険な状況である。
「オクトパス……どこ……はやく……あがら……な……きゃ……」
上がらなければマズイのは本人が一番理解してはいるのだが、身体が言うことを聞こうとしないのだ。まるで、海の魔物にでも掴まれて、底へと引きずり込まれていくかのように。
「あ、た、し……ん、あぁぁ…………」
程無くしてクーラの意識は途切れた。
その直後である。糸の切れたマリオネットのように沈み行く彼女を抱えて、何者かが陸へと上がったのは……
2016-06-19 05:23:26 +0000