「まるで要塞ですな、ここは・・」
クルト「ここは陣地とは孤立してる・・包囲されるのは当たり前 だから、頑丈にできてるんだ、ここを突破されるわけにはいかないからな」
「あの光は もしかして・・」
クルト「そう、我らが首都ベルリンの街だ あの明かりの下じゃ、今頃、大勢の民間人が、暖房の効いた部屋で夕食でも食べてるんだろう」
「こんな民間人の街に近いところで陣地を張るなんざ、正気とは思えませんね・・・おっと失礼しました つい、口がすべっちまいまして」
クルト「構わんよ、そう思われても仕方のないことだ、政府が疎開を禁止してるからな、そんなことをすれば負けを認めるようなもんだし、シュタージのせいで誰も文句を言わない、皆幻想にすがって生きているのさ・・・だから、俺たちは負けるわけにはいかないんだ・・おかしいとは思わないでくれ これくらいの気概がなければ国は守れん、君たち日本人が昔やったような『バンザイ』や『カミカゼ』のようなものさ・・・おっと、今度は俺のほうが失言したかな?」
「かまいませんよ、それくらいの気持ちを持つのが当たり前のことです、洗脳されて戦ったなんざ、戦場で散った人間に対する冒とくとしかなりませんからね・・・こんな時に何ですが、今日曹長は誕生日じゃないですか?おめでとうございます とても俺より下の18歳とは思えねえ」
クルト「驚いたな、本当に何でも調べるんだな 日本人ってのは勤勉だよ・・ま、前線で長く戦ってきたからな、気が付いたら老兵とまで揶揄されるようになった、年をいくつ重ねようが俺たち戦場で散っていく駒には関係のないものだ・・・だが、なぜかな?うれしいのは・・それが俺たちがまだ、人間である証ってやつかね・・そういえば思い出したな、敵国で民間人を皆殺しにして、物資を奪い取れと命令した鬼畜司令官がいてな、その部隊に一つの村が襲われた・・・俺たちが助けに来たときは、村人は全滅だった・・ただ一人の少女を除いて・・・その少女は兵士の一人を殺して生き延びたそうだ まだあどけない少女だった・・少女は生きるため 人殺しを選んだってわけさ・・神様はこんな時どうなさるのかね?人を殺して地獄へ落ちるくらいなら、鬼畜の餌食になったほうがいいとでもおっしゃるかね?」
「神の気持ちは人間が理解できるもんじゃねえと思いますが、極限状態にある人間が、どんな行動を取ろうと他の人間にその行為を責めるってのは、ちょっとおこがましいと思いますよ」
クルト「フッ・・愚問だったな・・あの子の行方はあれからしれないが 生きていたら、どうしているかな?」
「それこそ神のみぞ知ることで・・・運が良ければ、新しい道を開けるでしょうよ」
そして十数年後・・・
「ロヴロさーん、回診でーす」
ロブロ「・・・何の真似だ?イリーナ」
イリーナ「あら、さすが師匠 気が付いちゃった?」
ロブロ「そんな胸をはだけた看護婦がいるか、それに殺気を確実に消す事を覚えないと、普通の無能なら殺せても、プロフェッショナルには無理だぞ?イリーナ」
イリーナ「点滴用の針を護身用に取っておくなんてさすがね、でもよかった・・師匠が大けがしたって聞いたときは本当に心配したのよ・・・」
ロブロ「元々殺し屋である俺がいつくたばろうと、誰も気にしちゃいないさ それに俺は殺し屋としては長く生きすぎた・・・あのまま死んだほうが、俺のためにも世のためになるだろうにな」
イリーナ「でも、ここに一人あなたを思ってる人はいるわ・・・今日は何の日か知ってる?師匠の誕生日じゃないの 私が忘れたとでも?」
ロブロ「まさかここで誕生日の話をされるとはな・・・とがめる気が起きない俺もヤキがまわったもんだよ お前もあのタコや生徒たちに囲まれているうちに、どうやら見つけたようだな 殺し以外に生きる道を・・・」
イリーナ「でも、それはあなたのおかげでもある・・あの日からずっと、あなたは私の父と思っているわ、それより誕生日ケーキ食べましょ?パパ クラスの連中と一生懸命作ったんだから!」
ロブロ「フッ、ならお言葉に甘えて、いただくとしよう 点滴からウイスキーを飲むより うまいだろうからな・・・」
2016-04-07 11:39:13 +0000