-まだ、何とか生きている-
思い返す。結局、昨日の予感は的中し、あのメールの異常性はただちに証明される事になった。
運がいいのか悪いのか、幾つかの人形に襲われはしたものの、全くの無傷で、かつ誰かに刃を向ける事も無く帰ってくることができた。
幸い隣の家の馬鹿も最悪の事態は回避する事ができたようだ。流石に少なからずショックだったようで、今日は学校でも比較的おとなしかった。
見つけて守ってやれれば良かったのだが、余りの人と人でないものの多さに、開始直後見失って以降、追いつけなかった。
それに、妙な二人組が・・・。押入れで息を殺しながら、かの男たちの事を考えた。
竹刀でも変質させた日本刀でも全く『刃』が立たない人形相手に俺が苦戦していた時、何処からともなく現れたその二人は、かなり印象に残る組み合わせだった。
銀髪の、心の冷えるような微笑をたたえたベスト姿の中年男性と、対称的ににやりと人なつっこそうな笑いを浮かべた、長身長髪で派手な衣装と薔薇の香りを身に纏った30代前後の男。
中年男性の方は俺の方に一瞥もくれず、鞭のように銀の鎖を操り人形たちを打ち砕いていった。
派手な方の男は無骨で重そうな斧を軽々振り回し、人形たちの頭をたたき割ったり、首を落としたりして同様に壊して回っている。
凄まじい手際の良さに呆気にとられていると、派手な長髪の男の方が俺に気づいたらしく、帽子をちょんと持ちあげて挨拶してきた。
「その獲物じゃあ武器の方が先に駄目になっちまうぜ、兄ちゃん。」
「何・・・・」
「それは温存しておいて、別の鈍器か何かを探した方がいい。関節狙ってブチかませば、結構簡単にいけるから」
「あ・・ああ・・」
「じゃ、気をつけてな」
へらへらと手を振り、すぐに中年男性と行ってしまった。
その後、言われた通り近場の建物からバットを見繕ったおかげでかなり仕事はやりやすかった。
明らかに並の参加者より腕の立つ妙な二人組・・・。気にはなったが、名前も知らない。
そう簡単に死にそうにない相手だ、もしかしたらまた出会う事もあるかもしれない。
僅かだが、あの助言のおかげで顔も覚えていない参加者を救う事が出来たのだ。礼くらいは伝えておきたい。
隣の、自分の部屋に置いてある、夢の中から持ちかえってきたバットのおかげで・・・。
そう、俺の部屋は隣。つまり、今俺が隠れているのは別の・・・今は亡き両親の寝室だった部屋の押し入れだ。
全く・・・命がけで心霊現象と戦っている時に別の事に気をやるなんて、どうかしている。
頬を軽く叩き、現状に集中する。
再び届いた差出人不明のメールに書かれていた「ひとりかくれんぼ」というものを不本意ながら実践している最中だった。
眉唾だろうが、人の命には代えられない。またすぐに開かれるだろうあの悪夢の催しから、一人でも救うのに役立つ手掛かりが得られるのなら多少の労力は安い代償だ。
しかし、万が一あの馬鹿がいつものように窓から俺の部屋に入ってくるとも限らない。そうなれば、せっかく助かったあいつの命が危機に晒されてしまう。
入るなと言って聞く相手ではないのは十分に分かっているので、「そもそも不在である」事を装う方向に動く事にした。
葉風にも、いつも俺にまで良くしてくれている葉風の両親の心にも、俺の両親の殺害事件は未なお暗い影を落としている。
特に葉風は当時俺以上に塞ぎ込み、しばらく口も聞けなくなった程だった。隠してはいるが、奴はこの両親の寝室には今でも立ち入る事が出来ない程、傷ついている。
だが、今はそれが都合がいい。葉風の家族にばれないよう、部活を早引きしてこっそり帰ってきたのも、勿論巻き込まないようにするためだ。
こんな事をしているのがばれれば、俺もあのゲームに参加している事がばれるだろう。
それでもいいのかもしれないが、あいつが自分から弱音を吐かないうちは、何も知らないふりをしてそっとしておいた方がいい。そう思うから、今はまだ黙っておこう。
親父。おふくろ。
二人の思い出の部屋を、こんな事で穢してしまって申し訳ないと思う。
だが、正義感が強かった親父も、お節介焼きのおふくろも、きっと快く許してくれるだろう。
むしろ、躊躇わず行動しろと、あの世があるならそこで激励してくれている筈だ。
暫くの間、二人の事件の真相に関して追う事ができないが、我慢してほしい。
もしかしたら、二人が助けてくれたこの命をあたら散らす事になるかもしれないが、俺に後悔はない。
一連の事件を無事に生き抜く事が出来たなら、きっと。俺の手で真実を見つけてみせる。
床のきしむ音がする。誰かが、いや何かが、寝室を歩いている。
来るなら来い。俺を殺せるものならば。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
★お借りした子
隣の幼馴染 霞城葉風さん【illust/54303000】
★
出雲黒郎【illust/54604591】
扼司クビル【illust/54032730】
糸魚川霧継【illust/54138030】
2016-02-29 07:12:30 +0000