企画:仁本物語弐【illust/52333018】
「愛するヒトのことを考えてください、ハイそのまま。それじゃあ、撮りまーす」
◆いと/男/半妖(猫又+片輪車+火車+人間+以津真天+おとろし+一反木綿)/20くらい/164cm/おれ
右目と尾の先に炎を灯した猫又。
触れても熱くはないらしい。
角も生えているが、鬼ではない。
縁結びの妖怪である父と三度の飯より恋バナが好きな母の影響で
自分も、しあわせそうな恋人同士を見るのが大好き。
好きが高じて撮影係を買って出るうちにそれが仕事になった、いわゆる式場カメラマン。
彼の撮った写真には、ごく稀に、目には見えない紅い糸が写りこむことがあるのだとか。
基本的に生真面目で一生懸命なので、式場以外でも頼まれればカメラを抱えて飛んでいく。
そこそこ仕事は忙しい。
胸は大きければいいと思っている節のあるシスコン。
◆家族
父(妖怪):絹羽さん【illust/54033347】
「あのふたり見える?紅い糸。撮ったら写るかなぁ。うん、しあわせになってほしいなって」
母(半妖):らん【illust/53824880】
「買いもの?鈴と? おれもおれも……荷物持ちはお手柔らかにお願いします」
姉:鈴蘭さん【illust/54541841】
「恋してなくても、鈴はかわいいよ。ねぇ、撮っていい? 笑ってくれたらうれしいなぁ」
◆素敵なご縁をいただきました!(1/10)
赤い糸のお姫さま 夜舞さん【illust/54533940】
いつの間にか、足首に赤い糸が絡まっていた。
父や姉と違って、自分にはその糸を見たり結んだりする才能はない筈で。
不思議に思っていると、ひとりの女の子が「遊んで」と言ってやって来た。この糸を結んだのは彼女
らしい。
「足…?珍しいかな? 構わないよ、丁度手も空いているし。何をして遊ぼうか」
変わった悪戯をする子だと思いながら、乞われるままにあやとりやお手玉をして遊んだ。童話の本も
読んで聞かせた。なんだか、妹ができたみたいで たのしかった。
別れ際に被せられた石灯籠の帽子は、仕事にならないので取ってしまった。あの細い腕でよくもと思
うくらい重かった。
次に来たときに拗ねて何やら不穏なことを呟いていたけれど、遊びに誘えばあっという間に機嫌を直
してくれた。この手は使える。
あやとりの糸や、おはじき、双六… いつ彼女が来てもいいように、遊び道具を持ち歩く癖がついた。
実際、彼女――夜舞は、何処に居てもふらりと現れた。運命の人を探しているのだという。幼い頃か
ら母に何度も聞かせられた、父親との昔話を思い出した。
いつか、夜舞にもそんな人ができて、いまのように遊んでくれとせがみに来なくなるのだろうか。
彼女の願いが叶えばいいと思う反面、その日がくるのは寂しい気がした。
ほんとうの妹ではなくとも、よく懐いて慕ってくれるこの子が、おれはかわいいのだ。
ずっとこうして居てくれたらいいのに、と思い始めていた。
撮った写真を見せると、夜舞は喜んでくれた。
いとの見る世界は綺麗だね、と。そんな風に感じる夜舞のこころも、おれはきれいだと思うのだけど。
少しだけ、寂しい目をしたように見えて気になった。
この頃、夜舞の元気がない。
相変わらず気紛れに遊びには来るものの、口数が少なく考え込んでいたり、なにか言いたそうにして
みたり。
相談事があるなら乗ってあげたいけれど、それが何かを訊くのもこわかった。
それで、写真を撮ることにした。
目には見えない赤い糸。おれにはそれを見ることはできないけれど、おれの撮る写真にはそれが写る
ことがあるのだ。夜舞の運命の人も、何処に居るのかわかるかもしれない。
ちりりと胸が痛んだのには、気づかないふりをした。
でも、写真には何も写らなかった。
そうそう上手くはいかないものだ。
元気づけるつもりが何の役にもたてなかった申し訳なさと、そのことにほっとしている自分が居た。
いつになく悲しそうな顔で項垂れる彼女の指に、あやとりの糸を結ぶ。「これなら、目に見えるでしょ
う?」本物の赤い糸でなくたって、もう少しこうして居たかった。
糸を結んだ指が、指に絡まる。
ちょっと目を見開いて、驚いたように此方を見て。それから、胸に灯った明かりのようにひっそりと
微笑んだ、その顔に目を奪われた。
妹だと思っていた。いつか素敵な相手を見つけて、しあわせになる彼女を見送る日がくるのだと思っ
ていた。
それが自分ならいいのにと、思ったことがないと言えば嘘になる。だけど。
それから、
ただいまと家に帰れば、当然だろうと言って出迎えてくれた。
最近、気がつくと知らない人形が増えている。
家が手狭にならない程度にするんだよと言えば、素直にわかったと返事をした。
出掛けに、作ってみたんだとお弁当を手渡された。
開けてみれば、びっしりと海苔で書かれた文字が。愛恋縛慕唯一無二生涯結… 覗き込んだ知り合い
は後ずさって行ったけれど、彼女らしくてかわいいと思う。夜舞は手先が器用だ。
雨が降れば、何処に居ても迎えにきてくれた。
最初は吃驚したけれど、王子様だからと言われれば納得してしまう気がするのは何故だろう。
そう言う夜舞のほうが王子様みたいだと言ったらどんな顔をするかなと思いながら、今日も持ってき
てくれた傘をありがたく使わせてもらう。
――ずっと誰かを見つめる視線を写してきた、誰かを想う、誰かに向けられる笑顔を写してきた猫の
アルバムに、近頃 ひとりの少女の写真が増えている。
どんな些細な瞬間も、表情の変化も逃すまいとするように焼きつけられたその写真たちは、一枚一枚
がいとおしい、いとおしいと語りかけてくるようで。
「いいモンだねぇ、恋ってやつは」
おれが王子様なら、君はお姫様だ。
童話の終わりはこうじゃなくちゃね、ねぇ、おれといつまでもしあわせに暮らしてください。
夜舞、あいしてる。
問題ありましたらご連絡くださいませ…!
2016-01-06 06:06:08 +0000