亀井宏・・・ノンフィクション作家

ふじみのる

亀井宏氏はオレのもっとも信頼するノンフィクション作家である。
1934年、昭和9年生まれ。少年期以降の教育は戦後教育と言う事になる。
当初は小説家を志し、昭和45年、第14回小説現代新人賞を受賞した。
30代半ばから太平洋戦争に興味を抱き、ノンフィクション作家となる。
1979年、昭和54年には、『ガダルカナル戦記』で第2回講談社ノンフィクション賞を受賞した。

昭和40年代から50年代にかけて、幾多の将兵を自ら訪ね、取材し、ノンフィクション作に結晶化した。
日中戦争・太平洋戦争に参加した将兵の多くが鬼籍に入られた2015年現在となっては、もはや不可能となった難事を誰に強いられるでもなく、自らの信念に基づいて断固やり遂げた姿勢に、ただただ頭が下がる。ノンフィクションとして多くの記録を残して下さったことに、今を生きる日本人として感謝したい。

氏はいわゆる左翼系の作家ではない。むしろ、
『三十代なかばごろから、敗戦後うけた自分の民主教育というものがどうもウサンくさいものに思えて仕方がなくなった』と言うのが、
小説ではなく日中・太平洋戦争に取材したノンフィクションの著作に向わせた動機であったようだ。

しかしその作品を読めば、けして左翼系などではない氏をして、満州事変以降、いかに当時の軍部が傍若無人な振る舞いの挙句、泥沼の日中戦争に傾斜し、やがて、太平洋戦争に突入して行ったかを描かざるを得なかったのかが分かる。
そして、その軍部と言うのも他でもない日本国民の中から生じたものであり、当時のマスコミも世論を煽り、国民もその論調に熱狂し、当初不拡大方針を取ろうとした政府も陸軍中央も、相互にスパイラルアップするかの様にして、戦争へ戦争へと突き進んで行ったかが了解される。

先の大戦がいかに生起し、何が起きたのかを知りたければ、以下の氏のノンフィクション作を読むが良い。

『ミッドウエー戦記』・・・光人社NF文庫。約600ページ。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%89%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E6%88%A6%E8%A8%98%E2%80%95%E3%81%95%E3%81%8D%E3%82%82%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%AD%8C-%E5%85%89%E4%BA%BA%E7%A4%BENF%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%BA%80%E4%BA%95-%E5%AE%8F/dp/4769820747
帝国海軍が万全の準備を整え、必勝を期したミッドウエー海戦。その戦いで如何に完敗を喫したか・・
日本人の作る組織と言うものの等しくもつ、構造的欠陥をえぐり出している作と思われた。
『ガダルカナル戦記 全3巻』・・・光人社NF文庫。各巻、約600ページ、710数ページ、約700ページ。
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%AC%E3%83%80%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%AB%E6%88%A6%E8%A8%98%E3%80%88%E7%AC%AC1%E5%B7%BB%E3%80%89-%E5%85%89%E4%BA%BA%E7%A4%BENF%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%BA%80%E4%BA%95-%E5%AE%8F/dp/4769820321
帝国陸軍3万人の兵力を投入しながら2万人が生きて返らず、それも多くが餓死であったとされ、餓島とも称されたガダルカナル島を巡る約半年の、太平洋戦争の帰趨を決した海陸の戦闘を詳述した、全2000ページ超の大作である。
ガダルカナル戦が単なる太平洋の小島を巡る局地的戦いなどではなく、その後の戦争のありようを決定付ける戦いであったのかが良く了解された。
とりわけ、餓島と言われた陸軍の陸上戦だけではなく、海軍による幾多の空・海戦がどれほどの消耗戦であり、真珠湾奇襲後わずか1年を経ずして、すでに土俵際に追いやられていたのかが良く分かった。
ここでも陸海軍相互の連絡もなく、戦争の着地点を何処におくか、戦争指導層が全く定見を持っていなかった、その構造的問題が浮き彫りになる。そうした戦争指導層のもと、2万の将兵が餓死するに至った、その慟哭の記でもある。
『東條英機 上・下2巻』・・・光人社NF文庫。各巻、約450ページ、約500ページ。
http://www.amazon.co.jp/%E6%9D%B1%E6%9D%A1%E8%8B%B1%E6%A9%9F-%E4%B8%8A%E5%B7%BB-%E5%85%89%E4%BA%BA%E7%A4%BENF%E6%96%87%E5%BA%AB-%E4%BA%80%E4%BA%95-%E5%AE%8F/dp/4769821948
書名は『東條英機』であるが、東條英機の評伝ではない。
むしろ、日中戦争に至るまでの経緯と泥沼と化したその戦況、日中戦争の打開策を得ようとしてもがくうち国際的に孤立し、独伊との同盟に活路を求めた挙句、さらに太平洋戦争開戦に至り、ついには300万柱の犠牲の末に敗北した大きな歴史。その中でひとつの駒として時代に翻弄された東條英機と言う人物をとおして、その大きな歴史のうねりを描こうと試みた作であると思われた。
なぜ日本があの戦争に突入し、かくも悲劇的敗北を喫したか、この一作を読めば少なからず了解できよう。

いずれの作品も大著であり、かつ、関わった人名があまた登場する、けっして読みやすい本ではない。
が、繰り返すが、関係者が存命のうちに全国を自らの脚で尋ね、その真摯な姿勢でもって真実を引き出し、記録し得たことは、亀井氏の信念のなせる業であり、歴史に誠実であろうとする氏のまごころであったと、感謝に耐えない。
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今回、オレのもっとも信頼し、尊敬するノンフィクション作家、亀井宏氏と向き合った。
最近、信念がその相貌に表れている様な人物はとみに少なくなったと感じている。
(オレ自身のカオなど、信念もへったくれもない、軽佻浮薄を絵に描いたようなカオをしている・・)
しかし亀井氏はまさしく、その、信念が顔に出ている人物と思う。氏の信念にほんのすこしでも迫る事はできたであろうか・・
ネットで検索すると、簡素というより、失礼ながら粗末と言える様な襖のある居間で、おそらく取材に応じているのであろう氏の写真がヒットする。
”作家”などと言う華やかな言葉とはおよそ無縁な、おのれの経済的裕福さを追う事などハナから止め、ひたすら歴史の真実を追うことを人生として選択したであろう男の姿が、そこにはある。
21015年6月、現代ビジネスの取材に応じる氏の近影が伝わった。 感銘に耐えない・・。
http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/43725
その氏の相貌と、ミッドウエー海戦で被弾炎上する帝国海軍・空母、赤城、ガダルカナル島・マタニカウ川を下り飛行場奪還に向う一木支隊、開戦約9ヶ月前、小春日和の日差しの中を歩む東條英機親娘とを組み合わせカタチにしてみた。

#亀井宏#戦記#ミッドウエー海戦#Hideki Tojo#帝国陸軍#帝国海軍#akagi#ガダルカナル#war#餓島

2015-10-25 08:13:37 +0000