【PFT】荒世万交3

三角比

生温い風が吹き抜けるような、嫌な予感がした。

舞台をネヴァーランド号に移し激化するコミュニティ間の紛争。
側にいたはずのハスティとの距離が離れてしまっていることに気付いた、その瞬間。

「――ッ」
這いよってきた『なにか』が腕に食らいついている。獣よりも鋭利ではない歯――人か。
否。生気がないのに爛々と輝く赤い眼がそれが人に似て人ならざるものであると語っていた。
『なにか』は尋常でない力で袖の布ごと皮膚を食い破り、血が滴る。

「これには触らない方がいいよ」
剥がすに有効そうな魔法を思いついた順から試そうとしていたところに死角から声がかかる。
出処を確かめる間もなく襲いかかってきた『なにか』は解体され地面に散らばり、どろりと黒い粘液のようなものが広がる。
「やぁ」
再びかけられた声に今度こそ視線を向けるとすぐ近くに金色の糸のようなものを纏った青年が立っていた。
金色の糸は青年の髪だったり衣服だったりから伸びているようだった。魔法や術の類というよりは特殊な技術や能力のように見える。
「傷は大丈夫?なんともない?」
「わっ」
生き物のように蠢く糸の先に意識を向けているうちに青年は先程よりも随分と距離を詰めており、負傷した腕を取られていた。
ぎょっと顔を見ると人のよさそうな笑顔を向けられる。そのまま落ちる視線に引っ張られるように傷を見る。
獣に噛みつかれたような穴が開いている状態を確認するとずきずきと痛みが強くなったような気がした。
加えて青年が確認するように傷の周辺を指で押すから余計に痛い。
「……うん、手当てをすれば大丈夫そうだね」
「あ、あの…ありがとうございます」
「つい助けちゃった。そーちゃんの友達はおれの友達だから、いいよね?」
「――え?」
「こんにちは初めまして、ディマイズゴアのウロフだよ。君のことはそーちゃんからちょっと聞いてる。もしかしてそーちゃんを追いかけて来たの?だったら残念だけどこの世界には来てないよ」
「えっ、あ、」
「シュード!」
なだれ込む新たな情報を噛み砕く前に弾丸のように突進した誰かが割り込む。
わざわざ傷を負っている方の腕を掴んで強引に背に庇われる。怪我人にもまったく容赦がない。
「言ったはずだ!このニオイの者に不用意に近づくなと!」
「こ、これは不可抗力……あっ!」
額の赤い結晶と、同じ色の二つの瞳。この特徴の持ち主は。
「ハスティ!?」
半信半疑で名を呼ぶとじろりと視線を寄越す。鋭い目の形もそのままだ。ところどころ見慣れた狼の名残はあるが、まるで人のような姿をしている。
二つの足が地を蹴り、ディマイズゴアのウロフと名乗った青年に鋭い爪を繰り出す。
「あっは!かわいこちゃんが増えたなぁ!じゃあもう少し楽しんじゃおう!」
攻撃をひらりと躱したウロフが異形の怪物へと徐々に変貌する。
少し前の自分なら恐怖で立ちすくんでいたかもしれないが、今は同じような異形の姿を持つ人物を知っている。
そして彼こそが遥か遠くなのか隣のように近いのかわからない異世界での旅路の目的だった。
それにしても――。

「また、変身…!」
どうも最近、二つかそれ以上の姿を持つ者と縁があるような気がする。
どこかが破壊されたか激しい戦闘に耐えられず崩れたか。轟音と共に砂と煙が舞い、その更に向こうで紫色の電が走る。
戦場を走り回る兵たちの顔には疲労が滲んでいたが、戦闘は未だ終わる様子がない。
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設定お借りしました
ディマイズゴアの感染兵【illust/52681745

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ハスティ&シュード【illust/52191303
ウロフ【illust/52406740
企画元様【illust/49662235
第三章『荒廃の世界ルーイン』【illust/52113751】 『最終戦』【illust/52633446

#pixiv Fantasia T#ギラルド#【特務機関ディマイズゴア】#【ヴェリヴァサラ】

2015-10-10 06:31:02 +0000