ねえ、鳥居さんはゲンバクって好き?…あたしは嫌い。
猫を追いかけていたら、不思議な鳥居を見つけた。半分しかない、変な鳥居。矢矧ちゃんとははぐれちゃったけれど、きっと探してくれるから気にしないことにした。変な鳥居は長崎の街の中にひっそりと佇んでて、気づかなければ片足で立ってるなんて分からないくらい。でも、なんとなくつるつるした感じとか、片足なのに強そうな感じに惹かれて、あたしは鳥居に近づいてみた。
「その鳥居が気になるかい。」
通りすがりのおばあちゃんがあたしに聞いてきた。
「なんかこの鳥居おもしろーい!なんで半分なの?」
「それはね、原爆に半分吹き飛ばされたのさ。」
「ゲンバク?」
おばあちゃんは頷いて、鳥居のつるつるしたところを触った。
「原爆が何もかも壊してしまったのさ。今から70年前のことだ。」
70年前。あたしがまだ船だった頃だ。
「ゲンバクって、怖いの?」
「そうだよ、とっても怖いのさ。人間なんて一瞬で蒸発してしまう。…それが、この街に落とされた。」
おばあちゃんは目を細めて、遠くを見ていた。あたしも真似をしてみたけれど、あんまり何も見えない。
「この街が火の海になったのさ…」
「今はこんなにきれいな街なのに?」
火の海なんて、あたしには想像できなかった。
「この鳥居は全部知ってるよ。原爆の恐ろしさも、戦争の愚かさも、命の大切さも、街の復興も、今も苦しむ人たちがいることも…」
「ぴゅうー…ちょっと難しいなぁ。」
「きっと、いつかお嬢ちゃんにも分かるさ。そしてそのときは、お嬢ちゃんが伝えるときだ。戦争の恐ろしさを、命の大切さを。」
おばあちゃんはあたしを見て笑った。
「…おばあちゃんは、ゲンバクのことどう思ってるの?」
「…嫌いだよ。私の大好きな街をめちゃくちゃにしたんだ。一生許さないよ。」
「ふぅーん…鳥居さんは?鳥居さんはゲンバク、好き?」
あたしは鳥居に聞いてみたけど、石の鳥居はびくりともしないし、あたしが押してみてもすました顔してる。そんな鳥居を半分にしちゃったゲンバクって、本当に怖いんだな。よく分からないけれど、あたしの中で怒りがわいてきて、大きな声で叫んでしまった。
「…あたしもゲンバク嫌い!嫌い嫌い嫌い!!」
「あはは、そうかいお嬢ちゃん。その気持ちを大事にするんだよ。」
それから、しばらくおばあちゃんと鳥居と、長崎の街を眺めていた。街はなんだかきらきらしていて、とっても素敵だった。
「酒匂ー!酒匂ー!…いた!もう、いなくなって心配したのよ?」
「あっ、矢矧ちゃん!おばあちゃんにね、ゲンバクのお話してもらったの!」
一瞬矢矧ちゃんの表情が消えたけれど、矢矧ちゃんはすぐに怒った顔をした。
「だからって勝手にいなくなっちゃ駄目じゃない…それで、おばあさんが帰ってからはずっと一人でここにいたの?」
「ぴゅ?何言ってるの矢矧ちゃん、おばあちゃんはそこに…」
あたしが振り返ったら、おばあちゃんはいつの間にかいなくなっていた。おばあちゃん、帰っちゃうの速いなぁー。もっとお話ししたかったのに。
「さ、帰りましょう?提督も待っているわ。」
「ねえねえ矢矧ちゃん、矢矧ちゃんはゲンバク好き?」
矢矧ちゃんは悲しそうな顔をして、
「…大嫌いよ、そんなもの。」
って言って、俯いた。
ふと、酒匂と鳥居という言葉が降りてきたので雑ながらまとめました。一本柱の鳥居は二度ほど見に行きました。表面が少し溶けてつるつるしたところ、片足なのにしっかりとして力強いところ、印象に残っています。私の予備校では6日は黙祷をしたのに今日はしなかったので日本人としてどうかと思っているところです。皆様はどうでしょうか。世界で二度と核兵器が使われないことを願います。
三度許すまじ、原爆を。
2015-08-09 12:30:45 +0000