国士無双

相摸屋 分三郎
Preview Images1/42/43/44/4

ある日 坂本龍馬と天馬たちはある武家屋敷を訪れた

「頼ーもう!」

「はーい」笠をかぶって草取りをしていた使用人の子供が答えた

「拙者 元土佐藩士坂本龍馬と申す、本日は西郷吉之助先生にお伺いしたき儀があって 参上つかまつった次第でござる 西郷先生にお取次ぎ願いたい」

「はい 少々お待ちを」子供は奥へ走って行った

しばらくして のっし、のっしと大きな足音がして、見るからに威圧的な風貌の大男があらわれた

「おいどんが西郷でごわす なんぞ御用かな?」

体も大きければ、もちろん声も大きい、

誰もが一目見ただけで息をのむ、この男こそ 薩摩の西郷隆盛であった

「拙者の知り合いの子供が当方の屋敷に連れていかれるのを見た者がおりましてな それはまことでござるかな?」

「それは嘘でごわす、おいどんたちがそのような『かどわかし』などするわけがない」

「本当に・・!?」

「くどい!!因縁をつけるつもりならただではおかんぞ!!おはんも脱藩浪人なら 公儀に言われるとまずいであろう!?足元の明るいうちに、大人しく帰れ!!」

西郷の剣幕に誰もが言葉が出なかった

しかし坂本は違った 相手の恐ろしい形相をまじまじと見ながら言った

「・・・おんし、本当に西郷かの?」

「な、何を言うか!!無礼なことを言うとただではおかんぞ!!」

「薩摩の西郷吉之助いうたら もっと器の大きい男ときいちょる、じゃけんど ここにおる男は 体は大きいが ひどく器の小さい男じゃ!!ニセモノに違いないぜよ!!」

「おのれ!!言わせておけば!!」西郷は激高し、坂本につかみかかろうとした

「伊予丸・・・もうよか」突然 子供の声がした

「さ、西郷先生!!」

見ると先ほどの子供が出てきた そして笠を取った時 全員が驚く

「し、信助!?」

その子供は信助にそっくりだった

「さすがは土佐の坂本龍馬どん その眼力恐れ入ったでごわす 実はここにいる伊予丸はおいどんの影武者をつとめておる男での、幕府の刺客がおいどんの命をねらっちょると聞いて 間違えて連れてきてしもうたそうでごわす 実際、おいどんも新選組に襲われたもんで 何とか逃げてきたがの あの子は奥の部屋でもてなしとるで、許しちょったもし」

すると奥から本物の信助が出てきた

手にたくさんのお菓子やサツマイモを持って ほおばりながら出てきたので

そののんきな姿に全員は言葉を失った

「えへへへー すっかりごちそうになっちゃった でもびっくりだなぁー!!西郷さんが 僕にそっくりだなんて」

事実 誰が見てもその通りだった 誰もが知る人物が、信助とそっくりとは思わないだろう

「うむ おいどんも鏡をみちょるようでごわすよ 信助どんは おいどんよりよい面構えをしちょる!きっと信助どんは 大物になるでごわすよ!!」

「わーい!!西郷さんに褒められたうれしいなー!!」

「しっかし 上には上がいるもんだねえ・・・ジャンヌダルクがメガネかけてたり、諸葛孔明が女だったりしたのもびっくりだったけどよー」

「西郷隆盛が信助そっくりとは まっこと事実は絵物語よりキテレツぜよ」

水鳥と錦は顔を見合わせて笑った

「ところで、坂本どんとこの子たちはどのようなお知り合いで?」

「こん子らはサッカーを取り戻すために戦っちょるんです」

「ふーむ・・・サッカーとはなんでごわすか?」

「先の時代では身分を関係なくできるもんです、武士も平民もない、そういう時代がくればいいとは思いませんか?これからの時代は そうなるのですよ」

「なるほど、そのために戦っちょるとは どうりで皆よい面構えをしとるはずでごわすな」

「実は今日参ったのは そのことについてお話したいことがありましてね、長州に薩摩と手を結びたがってる男がいるがぜよ それが桂小五郎(のちの明治政府の高官となる木戸孝允)ちゅう男です」

「ほう、犬猿の仲の薩摩となぜ手を結びたいのでごわすかな?」

「それはこの国のためぜよ 今は西洋列強がこぞって世界を自分のものにしようとしておる 弱腰の幕府じゃ何もできん、だからこそ日本が一つになって対抗せにゃならん、あの男はもし長州が滅びても薩摩が必ず後を継いでくれると信じちょる いかがです?西郷先生 ぜひ長州との同盟を進めてくれませんか?」

「なるほど、これからは世界に目を向けんといかん、確かに藩などにこだわってる暇はないでごわす もう一度、天子様を中心とした国にしなくてはならん・・坂本どん その話喜んで進めさせてもらうでごわす!!」

「そういうてくれると思うちょりました!!やはり西郷先生は器の大きいお方じゃ!!・・・あ、そっちの方も先ほどはついきつく言いすぎてしもうて 申し訳ござらん」

「あ、いえ 坂本さんに頭を下げられては こっちが困るでごんす・・」

伊予丸は赤くなって頭をかいた

「伊予丸はこう見えて実直で心の優しい男じゃ それはおいどんが保証しもうす 信助どんを手違いとはいえ連れてきたのは おいどんを守りたいばっかりにしたこと それが坂本どんと薩長の同盟の話に結びつくとは これは天祐(てんゆう)でございもんそ」

「そうかもしれんきに」

「では おいどんも サッカーとやらをさせてもらうでごわすかな!!」

「じゃあ僕たちがみんなでわかりやすく教えますからね!!」信助が張り切って言った

こうして後に薩長同盟が結ばれ 新しい時代を開くきっかけとなるのである

フェイと天馬はしばらく西郷隆盛のことを調べていた

「西郷の写真って一枚も残っていないし 銅像も実は彼の兄弟をモデルにしたという噂もある 事実はこうであっても 歴史はレールに乗ったものだから このまま進んでいくんだよ 明治維新の後、『西南戦争』で士族の反乱の長となり、逆賊として死ぬんだよね」

それを聞くと天馬は悲しくなった 向こうで楽しそうにサッカーをする西郷たちを見るとなおさらだった

「どうして西郷さんは そんなことをしたんだろう?もう日本人同士で争う時代は終わったのに」

その時、不意に後ろから声がした

「それは 明治維新の立役者たちの堕落ぶりが目に余ったからさ みな大義名分のために戦ったのに 最後は民のための政治を忘れ、自分の既得権益にばかり走った 今も昔も同じだろう?だから、西郷のような人間がやらなければならなかった この時代は大きな目的のために自分の意志を貫き通し、いさぎよく死を選ぶ人間が多かったのよ 国のために働く、まさに『国士(こくし)』だ 人を右翼だの左翼だの あんなフランス革命でできた言葉で説明できるもんじゃねえよ 今の政治家にはそういう人たちには逆立ちしてもかないっこあるめえよ・・・」

驚いて振り返ると 旅の僧侶のような恰好をした人間が立っていた

「君は・・誰だ!?」

「誰でもいい、通りすがりの名もなき草だよ この調子でがんばってサッカーを取り戻せよ 天馬くん、それから・・・近くにいる者には気をつけたほうがいいぜ」

そういうと相手は去って行った 笠から見えたその顔は天馬と同い年か、さらに下にも見えた

フェイの目に一瞬殺気のようなものがよぎったが それは天馬も本人も気が付かなかった

#イナクロ#Shinsuke Nishizono#Ryoma Sakamoto#tenma matsukaze#fey rune#錦龍馬#瀬戸水鳥

2015-05-19 12:33:05 +0000