道草を食うトイアル

電球
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キャプションは後から読んだ方がいいです。

「式は挙げたいです」
トイフェルさんちに着いて早々、愛しの社会不適合者はそんなことを言い出した。
「何を言ってるんです....」
「アルバくんにウエディングドレスを着せたいなって話です。あ、白無垢の方がよかったですか?」
あらぬ方を見遣りながら斜め上の発言をし出すトイフェルさんは毎度のことながらよくわからない。
「だから何のこと?!」
たまらずツッコミを入れたが、トイフェルさんはただにへらと笑うだけだった。
「まあ、別になんだっていいんですけど....ドレスは着たくないかなぁ」
とりあえず何か食べさせねば、と台所に立った。うわ、本当に冷蔵庫空っぽだ....。
「えーそんなこと言わずに。アルバくんきっと似合いますよ」
「言われても嬉しくないです!!」
それは残念....とつぶやきながらトイフェルさんはまたぼーっと窓辺に座っていた。手伝う気配も見せないところがさすがトイフェルさんである。よく、ああして窓辺に座ってるけど光合成でもしているんだろうか。
「ボクは、べつに、ずっと一緒にいられればそれで、結婚なんてどうだっていいのに....」
ほとんど独り言だった。男同士のボクらは歓迎されないことだって多いことは知っている。結婚なんて形式に拘らずとも、ずっと一緒にいればそれでいいと思うのだ。一生、最後まで面倒みさせてくださいとさっき言ったばかりだ。書類の上がどうであれ、ボクがいたい場所にいればいい。
「それは、そうなんですけど、でも法的に縛りたいんですよ」
ぼーっとしたままトイフェルさんが答えた。
「心だけじゃなくて、法的にもしばって、そうして簡単には離れられないように....公的にアルバくんをね、オレのものなんですよって主張したいんですよ」
「お、重い?!」
望洋としたままもらった返答は思いのほかずっしりとした重量だった。
「嫌ですか?結婚」
「い、や....じゃないですけど.....」
「じゃあそういうことで。今度指輪買いに行きましょう」
「急展開......」
予想も出来ないうちにあれよあれよと話は進んでしまっていた。ボクはまだ男子高校生の身ながらたった今婚約してしまったらしい。ぷ、プロポーズってもっとこう、雰囲気とかさ...いやトイフェルさんだかららしいと言えばそうなんだけど.....ブツブツ言うボクにトイフェルさんはただ楽しそうに笑うばかりだった。
ボクはまだ未成年で、トイフェルさんは大人で、ボクらは同性同士で、それで、この国ではまだ同性同士での結婚は出来ないある日のこと。

ここから先、ロス→アル要素があります。トイフェルがゲスです。

そろそろ暖かくなってきたとは言え、日が落ちてしまうとまだ刺すような寒さは残っている。
「あぁ寒い寒い」
一冬の間にすっかり口癖になってしまった言葉を適当に唱えながら、今時にしては少々古風な居酒屋に入った。奥の方の席に見知った顔を見つけてニヤッとする。
「おやこれはロスさん。いや、シオンさん?お久しぶりです。奇遇ですね」
向こうは目に見えて嫌そうな顔した。この人はポーカーフェイスが得意そうな風体でいて案外と正直に顔に出る。わかりやすいなぁとまたニヤッとした。
「奇遇なわけあるかよ白々しい。わざとだろ」
「わかりますか」
「率先して会うわけがない」
そりゃそうだ、と巫山戯た。恋敵同士、しかももう決着は着いてしまっている勝者と敗者が会いたいわけもない。それでも、今日に限ってはオレは目の前の、相変わらずこの世界でも黒づくめの男に用事があった。
「まあまあ、今日は少しお話したいことがあって」
逃げようとするのを抑え、無理矢理隣の席に陣取った。外はまだ寒かったから熱燗にしようかな、と注文した。
「どうせロクなことじゃない」
全体から滲み出る不機嫌なオーラを隠そうともせず、今にも帰りだしそうな彼をなんとか席につかせる。これからこの人にはただでさえ不味くなっているだろう酒を、もっと不味くして味わってもらわないといけない。
「オレね、アルバくんと結婚することにしたんですよ。もうお返事ももらってます」
「寝言は寝てから言えよクソホモ」
ホモはあなたもでしょ、と余計なことを言うと眉間のシワが更に増えて鬼の様な形相になった。なるほどこの人はクレアシオンである。
「式はちゃんとやりますから、ぜひあなたにも来て欲しいな、と。さすがに外国でやるつもりですけど」
でゅふふふと笑うオレと反比例してロスさんの機嫌は下がっていく。2、3人殺してそうな目つきだ。
「誰がそんなの....!!」
「とか言って。どうせ来るでしょう?っていうかあなたが来てくれないとアルバくんが悲しむでしょうし」
アルバくんのことを引き合いに出せば弱いのはお互いだ。ロスさんはもう睨むのを諦めてオレを視界に入れないようにしているようだった。
「なんで、わざわざ......」
そんなもの郵便なりメールなりなんなり、それで済ませられるだろう、と。ロスさんはむにゃむにゃ言っているが、オレにはそれがなんとも愉快だった。
「だって恋敵の、いや失礼、もうだった、でしたね。恋敵だった男の悔しがる顔ほど美味いものはないじゃないですか。あぁ、オレの酒は美味い」
他人の不幸は確かに美味しいのだ。
「見せびらかしてあげますから。絶対来てくださいね」
「......................」
ロスさんは今にもオレを呪い殺しそうだ。目力で人が殺せるならオレはとっくに死んでいるだろう。
「本当は、お前にあの人の助けなんか要らないんだ。お前は本来はよっぽど要領良く生きれるはずだろ。それを、何も出来ないフリしてあの人が世話しないとって思い込ませて。クソ野郎」
「自分のことを棚に上げないでくれます?あなたも似たようなもんじゃないですか」
「あの人は同情でお前のところにいるんだ」
「同情でもなんでも、オレが勝った。負け犬が何か言ってるようですけど関係ないですね。アルバくんが選んだのはオレです残念でした〜あはは」
アルコールの力も手伝ってかオレの口はよく回った。気が大きくなっているらしい。
「でゅふふふふ、ふふははは、楽しいですね。まあ、式には呼びますよって、それだけのお話ですよ。せいぜい待ちに待っておいてください。ではではお邪魔しました。今日はオレ、もう帰りますね。愛しのあの子が待ってるんで、遅くなるわけにいきません」
それではまた、と呪いのような再来の別れ文句で勘定をして店を出た。これだけコテンパンに打ちのめしたって彼は招待状が届いた暁には、どんな渋面したって出席するのだろう。アルバくんが悲しむから。恋する男はまったく哀れだ。あの男は哀れだ。こうして平和な世界に生まれ落ち、まっさらな記憶でも、結局彼の勇者と出会って恋をする。何処に行っても其れを繰り返す。恋する男は哀れだ。

#senyu#yaoi#トイアル

2015-04-05 16:34:11 +0000