二式高射瞬曳信管「甲」

たまや C101土曜東ア30a

 二式高射瞬曳信管は、曳火機能のほかに目標に命中した瞬間に爆発する瞬発機能を頭部に内蔵した高射用信管で、重量は560gである。従来高射砲弾に使用していた八九式尖鋭高射信管と互換性がある「甲」と、これの下部に安全扉や管薬室・塞板などを筒尾体に内蔵した筒尾をつけた「乙」がある。「甲」は、八九式尖鋭高射信管同様、高級爆薬を炸薬とする弾丸に使用する場合には起爆筒を併用する必要があったが、「乙」では筒尾がこれの役割を持っているのでその必要はなかった。
 使用例としては、「甲」は八八式七糎高射砲弾薬九○式高射尖鋭弾「修」(九○式高射尖鋭弾の信管のみを替えたもの)、同九○式高射尖鋭代用弾、同三式高射尖鋭代用弾、十四年式十糎高射砲弾薬九一式高射尖鋭弾「修」など、「乙」は八八式七糎高射砲弾薬三式高射尖鋭弾などがある。
●信管の特性
 二式高射瞬曳信管付き高射尖鋭弾は、目標のいずれの部分に瞬発しても、即時撃墜し得る威力を発揮する。二式高射瞬曳信管は、それまで用いられていた八九式尖鋭高射信管と比較して以下の通りの特性を有する。
1、曳火及び瞬発の両機能を具備する。
2、信管頭部は、やや鈍頭状を呈し、弾道性に若干の変化を来たすが、その差は顕著ではない。
3、薬盤が2枚となり、且つその緊定度を減少したため、信管測合が容易となった。
4、新火道薬は、気圧の交感が小さいため、大高度においても燃焼誤差が僅少であり、其の状態は機械信管に近似する。なお、管薬の改良と相俟って大高度における消火率は減少した。
5、信管本体の増強及び曳火活機の様式変更に伴い、過早破裂を減少し、且つ安全性を増大した。
6、錫帽に代えて着脱帽の方式を採用し、離脱後再び着帽するにあたり、蝋剤の使用と相俟って信管の防湿を容易にした。
7、信管の最大秒時を30秒から44秒に増加した。

●.構造
 信管の主要部分は、信管体・大薬盤・小薬盤・緊定環・蓋螺・信管頭及び着脱帽であり、信管頭には瞬発活機を、信管体には曳火活機を収容し、各薬盤には四号火道薬を填実する。
 瞬発機構は、弾薬の運搬及び弾丸の砲腔内運動間における安全を保持するための遠心子及び衝撃木栓、撃針、雷管等より成る。弾丸が砲口より離れて減速運動を始めると、衝撃木栓及び撃針は浮上し、弾丸旋回の遠心力にて遠心子は開放され、発火姿勢を構成する。そして弾丸が著達すると、衝撃木栓及び撃針は瞬発雷管を衝き、発火させる。
 曳火機構は、一般の内噴火式火道信管と概ね同一で、発射の衝撃により撃針は雷管を衝いてこれを発火させ、火道薬に点火する。そして、火道薬が燃焼し終われば、その火焔により弾丸を炸裂させる。
 火道薬長は、大薬盤を回転して信管分画を測合することにより加減されるものである。信管測合により一旦その位置を決定した大薬盤は、発射の衝撃で落下する楔形径始の緊定環を介して信管体に固着され、砲腔内及び飛行間に移動することがない。
 小薬盤は、組立当初より駐鍵により信管体に固定されている。 
 火道薬の燃焼により発生したガスは、各薬盤内面の小孔より噴出し、信管体に沿って上昇、緊定螺及び蓋螺の小孔より外方に流出する。ガスはこの間、火道薬の燃焼圧を概ね適当に保ち、燃焼を整斉させると共に、高空の気圧減少による消火を防止する。
 本信管を装着する場合の火工作業の要領は、八九式尖鋭高射信管の場合と同じである。
●取扱上の注意
本信管の取扱保存上注意すべき事項は、概ね以下の通りである。
1、八九式尖鋭高射信管と同様、特に防湿及び防温に注意すること
・吸湿は、瞬発機能には殆ど影響が無いが、火道薬の燃焼秒時を延長するため、曳火を予期する射弾が瞬発となる危険率を増大させる。
・防温、特に日光に対する無関心が「ベルニー」に影響し、薬盤の回転困難を来たすことは従来と同じである。また、寒地においては薬盤の緊定度が増加するため、できれば保温の処置を講じる必要がある。
2、特に信管頭の保護に注意すること
一般の瞬発信管と同様、激突や衝撃をつとめて避けることは勿論のことである。信管頭部に傷を受ければ、弾丸の飛行間に衝撃木栓及び撃針が浮上しないため、遠心子の作用が確実を欠き、瞬発不能の原因となる。
3、大薬盤の回転はみだりに行ってはならない
薬盤を数回回転させると、フェルト屑等により管薬孔を塞ぎ、往々にして不曳火の原因となる。但し、信管測合の初動を容易にするための小範囲の回転は、概ね支障がない。
4、長時間にわたる連続振動により、時として緊定環が移動し、大薬盤の緊定度が増大することがある。
5、着脱帽は、みだりに脱してはならない。
着脱帽を離脱した場合は、その必要がなくなれば直ちにこれを装着する必要がある。この際、着脱帽内側のねじ部に蝋剤を塗布する。
着脱帽を装するにあたり、あらかじめ施してある蝋剤を利用する場合があったとしても、やや長期にわたる保存あるいは格納時等においては、改めて蝋剤を使用する必要がある。そして、その溶融により信管の機能を害するおそれがあるので、使用量過多にならないように注意することが緊要である。

●射撃
 曳火射撃については、概ね八九式尖鋭高射信管と同じであるが、分画が増えたことと信管形状が異なる関係上、若干の修正が必要であった。
 瞬発に効力を期待する射撃の場合、高度・方向及び高低剰余修正量を把握するため、修正射撃を実施することを可とした。また、中隊の大部分をもって瞬発にのみ効力を期待する射撃を行う場合、効力射の基準諸元が的確でない場合は、一部をもって平均破裂点を目標に導く現行の射撃をもって射弾の観測に供した。このほか、危害予防に弾丸を自爆させるために適宜信管を3~5秒延長しておくこととした。
一方で、米軍側が鹵獲した二式高射瞬曳信管について1945年にまとめたレポートによれば、信管の用途について瞬発機能を併有する点を見て、野戦と高射の兼用であろうと推定していた。瞬発機能を専ら高射での撃墜用として扱い、その射法まで研究していた日本軍側との考え方の違いがうかがわれ、興味深い。
 なお、実物資料を調査したところでは、戦争末期のものと思われるが、信管体と塞底が鉄製のものがある。細部の仕上げ方の違いでは、蓋螺肩部を鋭い角に仕上げるものと円削するものがある。前者が東京造兵廠製、後者が大阪造兵廠製の例で確認されていることから、製造所による違いの可能性がある。

●製造
 実際の製造は昭和17年中には始まっており、逐次八九式尖鋭高射信管からの切り替えが進められ、終戦時点では製造所の在庫を見るかぎり、製造はほぼ八九式から二式に転換が完了していたようである。大阪造兵廠とその下請けの多数の民間工場、東京第一陸軍造兵廠とその下請け民間工場などで製造されていた。

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2014-08-21 13:10:51 +0000