あたしは何かを忘れていた。
大切な誰か。
救い出さなくてはいけない誰か。
駄目、駄目、思い出さなくては。
でも、いつも、彼が邪魔をする。
「メアリ」
「駄目よ、駄目よ、ーー、それだけは」
「メアリ」
「ええ」
「メアリ」
そうだ。あたしは綺麗な白いドレスに身を包み、
これから、ーー、彼と儀式を行うのだった。
忘れていた。それを、今の今まで、忘れていた。
「メアリ」
こちらを向いた彼の手が、あたしの頭を、やさしく梳いた。
それはまるで、仔猫を撫でるように。
「ええ、ええ好きよ、ーー」
「こんなこと、ええっと、は、初めてだから――」
彼は短く笑った。
あたし、変なこと、言ったかしら。
思考が鈍る頭のなか。
黒い闇に記憶を侵食されながら。
「ーー、」
あたしは大好きな彼へと、幸せだと、はにかんでみせた。
2014-04-25 07:40:47 +0000