彼女は葛藤していた。
自分が立ち向かって戦うべき相手は、故郷を奪ったゴルベイルではないのかと。
なんの恨みもないエンバーランドに、自分は刃を向ける資格があるのかと。
己に問いかけながら森の木の上に身を潜めていた。
だから真下をまさにエンバーランド兵が通り過ぎて行こうとした時でさえ、彼女は梢から動けなかったのだ。
その刹那、茂みより小さな獣が躍り出て兵士の腕に噛み付いた。狼だった。
襲われた兵士は驚いて、狼を刃で打ち伏せた。それを見た彼女は考えるより先に動く。
頭上より飛び降り、狼を腕に抱き、兵士たちを足止めして森の奥へと逃げ去った。
追う兵士の声が遠く聞こえなくなったとき、彼女は立ち止まり、腕の中の獣に静かに静かに頬を寄せた。
「……ここは、お前の故郷なのだね」
お前は、お前が棲む場所を守りたかったのだね。
私もお前と同じだ。
きっとそれはエンバーランドも、そしてゴルベイルさえも同じ。
争いは住処の奪い合いだ。そう知ってはいても、本当は分かっていなかったんだ。
ありがとう、勇敢な子。ありがとう。
狼の息が途絶えてしばらくののち、その骸を大樹の根元に横たえて、彼女はその場を離れた。
もうすでに、迷うことのない面立ちだった。
----------
●非公式イベント
狼の血【illust/42814170】
●背景素材
【illust/13898238】
気概はあっても、戦争に対する覚悟がまだ甘かったらしいテナ【illust/42502360】
一回くらい悩ませて吹っ切らせたかったのです。きっとこれからがんがん行くぞ……!
※羽根の茶色塗り忘れたけど気にしない気にしちゃダメ気にしてないったら
2014-04-14 16:47:48 +0000