【illust/40989117】のキャプションの続きと【illust/41476840】に伴って発生した出来事です。<novel/3402481>の前振り。
「………噂を聞いてやってはきたが、うちの妹を差し置いて歳若い娘ばかりに手を出しているのか山田守藏!!!」
『髭を蓄えた』『源氏の』『歳の頃三十を過ぎた』『酒の瓶を抱えた男』が、目に入れても痛くない自分の妹ではなく、見知らぬ少女を連れて歩いている。
「………いや、お待ちください。少々落ち着くべきかと」
「これが落ち着いていられるか。祖母から許しも得ている。貴様ぶん殴って鴨川に沈めて魚の餌に……」
「殴るなら兄を」
「えっ」
「私の名は山田範藏。おそらく、あなたさまの殴りたい男の、弟の方です」
兄には持ち合わせのない、『丁寧さ』と『礼儀正しさ』を持ち合わせた陶邑の長代理が、盛大に溜息をついた後に、黒髪の若い青年に、丁重に頭を下げた。
「…………その娘は」
「私の次女です。長女は懐妊中でしてな。代わりに連れて来た次第です。一度都というものを見せておこうと。戦も今はおさまっている」
「や、山田守藏の姪です。狛(こま)と申します。じゅ、十七になります……」
変わった形の武器らしきもの(陶芸の器具を模したものだと知ったのは後日のことである)を手にした、田舎娘らしさの抜けない小娘が顔を真っ赤にして頭を下げる。田舎の娘にしては殊勝にも爪に赤い紅を差しているが、爪にこびりついた土の色が落ちないのを隠しているのだろう。『かの男』が、陶器の名産地を治める一族の長だ、という話は聞いていた。さしもの風魔を束ねる次期棟梁も、これには何と言っていいのかさっぱりわからない。「忍」というのを生まれて初めて見たらしい娘が、真っ赤な顔で、何度も何度も頭を下げてくる。
「あの、うちの伯父上が、風魔の妹姫に、お世話になっていると聞いて」
背中の酒瓶は良く見ると新品のものである。どうやらどこぞへ納入するものらしい。毒気を抜かれて振り上げかけた拳を落す風魔の次期棟梁、風魔小太郎に、壮年の男が言った。
「話は聞きました。ご心配をおかけして申し訳ない。私が言うのも何ですが、心中お察し申し上げます。宜しければ、都外れの我が館へ。我が兄と違い、私の方は、往来で殴り合うのは苦手でしてな……」
<都の往来での一幕>
■続きはこちら(novel/3402481)■モブ弟こと山田範藏&その娘(illust/39467027)
2014-02-09 14:29:43 +0000