闇の中を突き進む者がいた。かつては人であった頃、彼は実兄である“剛拳”と共に厳しい修行の日々を送っていた。しかし、ある日を境に彼の中で1つの想いが募っていく。―力が欲しい。最強の力が―その日から彼は、師である“ゴウテツ ”から禁忌として教えられた“殺意の波動”を得ようとする。師にも兄にも悟られぬよう、彼は禁じ手である波動の力を得る修行を開始する。しかし、それすらも師“ゴウテツ”に見抜かれていた。再三に渡る警告を無視して、彼は波動の修行に励んだ。完全に殺意の波動の力の魅力に取り憑かれた彼に、師から破門を言い渡される。必死に呼び止める剛拳の制止を振り切り、彼は道場を後にした…。そしてその晩は嵐の夜だった。雷が轟音を上げ、風が木々を激しく揺らし、降りしきる雨が大地を叩き付けた。そんな嵐の中に混じって異質な“気”が周囲を包んでいく。草花は枯れ、木々が朽ちていく。その異質な気を真っ先に感じたゴウテツは、山の頂きの台地の真ん中に屹立しながら、鋭い眼差しを正面に立つ男に向けていた。―この馬鹿弟子が!!―ゴウテツが眼差しを向ける男に向けって恫喝を上げる。―うおおお!!―男は獣のような咆哮を上げた。顔付きが次第に鬼のような形相へと変わり、黒かった髪が赤く染まりながら逆立っていく。―せめてワシの手で逝かせてやるのがお前にできる師として最後の務めだ。ゆくぞ、豪鬼!!―ゴウテツが先手を取り、激しい乱舞技を叩き込んでいく。高齢の老人とは思えぬその技の速さに、男は防ぐので精一杯だった。しかし次の瞬間、男の掌から1発の光弾が放たれた。―波動拳!!―放たれた光弾が、ゴウテツの体に直撃し彼は後方の大木に激突する。―瞬獄殺!!―ゴウテツが最終奥義を放った。それに対抗するように、男も師に向かって駆け出した。二人が衝突した刹那、大地が激しく揺れ、辺りが土煙に包まれる。異変を察知した豪拳もその場に到着した。風が土煙を吹き飛ばし、視界が晴れると、豪拳は戦慄した。両目に映ったのは師の変わり果てた骸だった。四肢はあらぬ方向を向き、陥没した頭部からは脳が飛び出していた。そんな師を見下ろしていた男は師が首に下げていた巨大な数珠を手に取り、それを自身の首にぶら下げた。―豪鬼!!―豪拳が弟の名を呼ぶも、彼は何も言わずその場を去って行った。男の名は豪鬼。殺意の波動を纏いながら、孤高の拳士は各地を彷徨う。
2013-09-28 18:46:17 +0000