前回→【illust/30143565】
屋台から焦げたたれの煙が立ち上ってくるのは夕日が沈みきって、しばらくしてからだ。
煙に燻し出された常連客が暖簾をくぐる。提灯の明かりで夜を明かす。
毛玉のようにちんまりと温かい屋台は今宵も繁盛するのだろう。
おかみさんは今日も一人、料理の仕込みをしていた。
和服をたくし上げて川に入り、八つ目うなぎを浅い籠に何匹か捕まえ屋台へ戻る。それを何往復も繰り返すのだ。
大きい籠を使えばいいのに、と思う。そしてすぐに、籠を大きく重くすると一人で持てないのだと気付く。
僕が手伝えるだろうか。
もう一年もあの暖簾に触っていない僕が今更何を、と自嘲気味に笑みがこぼれた。ここからおかみさんまでどのくらいの距離があるのだろうか。どのくらい離れてしまったのだろうか。目と鼻の先にいる遥か彼方の彼女は、うなぎを見てふくふくと笑っていた。
活きのいいうなぎが一匹籠から飛び出した。
地面でのたうちまわるうなぎは僕に似ていた。
2013-08-01 15:17:56 +0000