雪原にて、寒さ凌ぎに小瓶の庭でやり過ごそうとしていたところに獣医の老婆と出会った。この老婆、50年前に起きたハイロンドとブライゼン間の戦乱を生きた者だという。私がその戦乱で死んだ騎士の亡霊だと言ったなら、老婆はどんな顔をするだろうか?
……視界の端にちらつくものがあると思ったら、庭師の少年がこちらの顔を覗きこんでいた。言いたいことは分かる。口には出さないが「ブライゼン人は苦手か」と。お人好しが。あなたのような年齢の子供はもっと自分のことだけ考えていてもいいのよ。
そんな庭師の横には、いつの間に居たのだろうか、庭師の切り分けた老婆の菓子を頬張る霧の魔物。霧の魔物は老婆をじっと見つめて片言で呟く。「食ベルとこ。あんまり、無さそう…」食べようとしてんじゃないわよ!…と、この魔物、『悲しい夢』が好きだと聞いたけれど。食べるところがないということは……。
「あらあら、わたし食べられてしまうのかしら?」霧の魔物のきっと本人からすると真剣な呟きを冗談と流す、少女のように無邪気な老婆の笑顔が眩しい。緩む口元に添えた手は傷だらけで、指が一本欠けている。彼女の生涯がその両手に刻まれていた。
……ああ。この老婆はあの戦乱から逃げずに乗り越えてきたのだろう。
幽霊として多くのものを置いてきた私と、生きて全てを背負ってきた老婆。50年間の重みが違って当然であった。私も生きて時を踏みしめていれば、あのようになれたのだろうか?
■お借りしました!
アプフェル【illust/34930413】
ピタパタ【illust/34323399】
■滑り込みシューーッ お婆ちゃんブライゼン出身なので赤タグも付けさせていただきました! レアーレとプセフティス【illust/34153219】
2013-04-20 13:57:22 +0000