廻国の東で見かける、海に住まう生き物。
新大陸へ向かう冒険者についてまわる...かも。
+++++++++
...代々漁師をしているという今日の客の話では、彼(もしくは彼女…、あーもう文字って面倒くさいな。性別なんて知らないけど彼は彼だ。)は随分昔からそこにいて、竜神の使いとも言われているのだそうだ。
私がとある海上の村に立ち寄った際、彼は見慣れぬ私の姿に気づくと、途端に長い首を海面から突き出しては潜り、みるみる船に近寄って来た。そして驚くべきことに、初対面の私を抱きかかえて泡に込め、そのまま海中散歩へと全く強引に連れ去ったのである…。(彼が案内した海は、確かに綺麗だった。)
...海上の村の者たちは、その友好的で無邪気な生き物を親しみをもって接し、大事にしていた。この村に滞在する間彼に関して知り得た特徴を、できる限り記しておこうと思う。...
彼はこの珊瑚礁でよく見かけるため、このあたりが住処なのではないかと思うのだが、漁師の話では、随分離れた別の海域でも目撃したことがあるという。(彼じゃなく彼の仲間なんじゃないのか?でも、僕も初めて見る生き物だしよく分からない。)どこで寝て、何を食べているのかは漁師に訊いてもわからなかった。
(…というか、彼に聞けばよかったんだ。まぁ僕生物学者じゃないから、本業の人に任せよう。)
不定期だが、パッタリ姿を見なくなる時期もあるという。もしかしたら…行動範囲は広いのかもしれない。空を飛ぶ竜があっという間に大陸を横断するように。
...(書くまでもないけど書いておこう。)泳ぐのはとても早い。長い体をくねらせて泳いでいた。
それと。2、3度ほど、彼が陸に上がっていたのを見たことがある。つやつやした青い肌をしていた。村人たちの祭りに参加して、朝から晩まで船の上にいたこともあった。彼はれっきとした海洋生物だが、きっと陸の生活もできるのだろう。
言葉は全く話さない。けれど彼の反応を見ると、こちらの言っていることは分かっているようだ。彼は意思疎通に泡を使う。泡を…例えるならソーセージのように、細長く。自在に引き伸ばして文字を作っていた。
私が名前を尋ねると、彼は泡の文字でこう答えてくれた。
『椣』
――――冒険商人ジャック・ダリエの手記より。
+++++++++
「しで」と読みます。よろしくお願いします!
2013-03-09 15:13:11 +0000