例によって申し訳程のノックのあと、返事も待たずにドアが開いた。噎せ返るような甘い匂い。抱えるほどの百合の花と共に、我が盟友が入ってきた。クフィーヤの影でオリーブ・グリーンの双眸が笑っている。また何か好からぬ事を考えているのだろう。 「アルベルト」 猫が喉を鳴らすような声で私の名を呼ぶ。 「君は百合は好きかい?」 何とも答えようが無い。百合は百合だ。ああ 宗教画においては純潔の象徴だったか――――― しかしそれもこんなに多くては、強すぎる匂いに酔って堕落しそうだ。ひらりと。白いクフィーヤがひるがえり、甘い匂いが一段と濃厚になる。目の前に居る盟友が、百合の花に見えたなどとは、絶対に言ってはやらない。
2013-02-14 15:41:26 +0000