「………雲が動いた。砂漠の方へ流れて行く様だ(http://p.tl/i/25276614)」
「綺麗な竜が飛んでいるのが一瞬見えたわ」
「地下水路前にいたあの男は……(http://p.tl/i/25557135)」
「つい先日(http://p.tl/i/23190231)たまたま会ったのよ。通してくれて助かったわ。お洗濯の割引クーポンがこんなところで役に立つなんて思わなかったけど、彼、なんであんな場所にいたのかしら………?」
そもそも魔力はあっても攻撃魔法などほぼ使えない詩人と、豪腕では引けを取らないもののスピードは度外視している重戦士、というコンビである。素早い動きで暗器を使う敵などというのは一度で十分だった。
「……雨を避けて地下にいたのか、それとも、別の理由があるのか。貴女の顧客ならば、深くは考えない方が良さそうだが」
「……お客様のプライバシー、大事ですものね。でも、今度会ったらさりげなくお礼を言わなきゃ。おかげで船着き場まですぐだったわ」
傷ついた小説家とこの『洗濯詩人』を背負い(http://p.tl/i/25318225)、出動してきたザンクトリア軍(http://p.tl/i/25950058)に見つからぬ様、街を駆ける志士と鉢合わせたのは、エアリエルが現在滞在している船に乗る前に出会ったホレイシオなる人物だった。
「あのおじさま、そういえば兄さんが随分気にしてたわ。不思議な人だって」
「……そうだろう」
「兄さんと先生、心配してるかしら………」
幸いにも竪琴に異常はないので、服の汚れを洗って乾かしてから帰ると主張してきかなかったこの『洗濯詩人』を背に、男は川沿いの遺跡の柱を挟んで腰を下ろす。
「振り返っちゃ駄目よ」
「………」
「まあ、その、乙女の恥じらいも大事だけど、洗濯娘たるもの、ぼろぼろで血まみれの服で帰るわけには、いかないもの………」
真夜中の激闘で傷だらけになった服を脱ぎ捨てて、商売道具の鋏で手早く包帯を作り上げ、更にはポケットに僅かに残っていた一握りの洗剤で血糊を落としながら、エアリエルは呟く。
「………誰も彼もが、煌めく剣を鞘に納める時間が来た様ね」
河原の遺跡を覆う葦が明け方の風に揺れ、明け方の光を受けて黄金色に染めてゆく。刀を抜き、かつての盟友がしていた様に刃に粉を打ちながら、男が答えた。
「然り、夜露で錆びぬ様」
<首都ムアルザム郊外の河原の遺跡にて>
2012-07-08 15:56:57 +0000