第二章の幻夢の樹海【illust/27273258】ネタですが、第二章間に合わなかったので今頃投下。
ちょっとホラーなんで、苦手な人は注意。
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森の奥深くにて、ふと景色が白くけぶった。
白く濁ったその向こうに父の姿があった。兄の姿があった。
だが私にはわかる。それがただ魔力によって映し出され、私の心を惑わそうとする影であることが。
兄の形をしたものが話す。
「ヤイル、こんな戦いを続けてもなんの意味がある?」
父の形をしたものが話す。
「戦いの果てに我らにもたらされたものは、ただただ苦痛と絶望だけだったというのに」
「さあ、武器を捨てなさい」
「神への信仰などあまりにくだらない。国への忠誠などあまりに愚かしい」
「私たちと共に穏やかに暮らそう」
なんて空虚で慈愛に満ちた言葉だろうか。
そうだ。戦いを辞め、戦火を避け、遠い遠い山奥でひっそりと静かな日々を暮らすことが出来ればなんと幸せなことだろうか。その選択肢を捨てているのは私自身だ。
けれど、ああ。
私はあまりに愚かだから、私はあまりに弱いから、私は武器を捨てられない。国に逆らうことができない。神にすがることしかできないのだ。
お前たちの言うことが正しいと心の奥底で理解しながらも、それに従うことが出来ないのだ。
その甘い幻惑に理性を奪われてしまえていたならば、私はきっと幸せになれただろう。
さらばだ。愛しき幻影よ。
矛を一振すると、兄は炎に巻かれ、父は血を吐きながらその形を崩していった。
あの日と同じように、幻影は死んだ。
2012-06-03 12:22:04 +0000