「この季節は本当に忙しくって、髪を下ろす暇もなかったの」
雨期は毎年、鳴らすと春風が吹く魔法の竪琴片手に洗濯物をせっせと乾かし続けているはずの洗濯娘が、通り雨が過ぎ去った後の人気のない夕暮れの森で呟いた。
定期的に便りを寄越し、そして時折ふらりと現れるこの娘の『普段のヘアスタイル』は流石に、様々な意味で予想外のものだったが、それを特に顔に出すこともなく、男はいつものようにゆっくりとパイプに火を灯す。
「一曲だけ披露していってもいいかしら」
いつものように背中越しに腰掛けた娘の持つロサ教会のランプが淡く光る。
従者の姿をし、人の心を持つ男が、この少々風変わりな友人がいつも持ち歩いている灯りに目をとめた。教会で作られたこの薔薇のランプは、従者が近くにいると輝きがくすむものである。だがしかし
「………前より、明るくなっている」
その淡く輝き続ける光を見て、世が世ならセントラルの翼持つ城の姫君の一人だったはずの洗濯詩人が、朗らかに微笑んだ。
「あなたが、人間に近い証よ」
洗濯板から木琴のような明るい音が鳴り、紅い紐、この二人共通の友の形見が、夕暮れの風に音もなく揺れた。
<ロサ教会の守護のランプ(illust/8887161)にまつわる話>■ランプの形が少し違うのは地面に置いて使うことが多いから特注してました。そのあたりも本編で描きたかった!■今までの詳細は固有タグ【minstreLaundry】よりどうぞ。■相変わらず手紙を書いたり、ふらっと現れてはたわいのない話などをして帰ったりしています。いつもお世話になっているハイネンさん(illust/8873764)■ドードーさんとアイロンさんはお仕事中。合間を見てそっと抜け出してきました。洗濯詩人エアリエル(illust/8532882)★そしてこっそりおまけ【novel/524513】
2011-06-05 15:40:56 +0000