貴方が望んだ姿ですよ

+慧+@C105(日)西か-4
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「……あっ、もうこんな時期か」
有マ記念を終え人が行き交う駅前を歩いていた時、あることに気付く。
赤や緑、金色を中心とした煌びやかなオーナメントが街灯などに飾り付けられている。
「もうすぐクリスマスですね。今年は心穏やかに過ごせそうです」
自分の隣で一緒に歩いている担当のドリームジャーニーが白い息を吐きながら周りを見渡す。
学園指定の紺色のピーコートを着た彼女の頬はいつもより朱が入っている。

「トレーナーさんはクリスマスプレゼント、何か欲しいものはありますか?」
「もう貰ったよ」

彼女は今日、有マ記念一着という輝かしい結果を手にした。
トレーナーにとってこれほどのクリスマスプレゼントは存在しない。

「むしろ君に何かプレゼントしたいと思ってるよ。何がいいかな」
「ふふっ、ではお互いにプレゼントを用意してクリスマス会で交換というのはいかがでしょう?」
「そうしよう。君が喜んでくれるような物探してくる」
「そのお気持ちだけで十分嬉しいですよ」

そんなやり取りをしながら帰っているとある物に目を引かれる。
アパレルショップのショーウィンドウ。
男女のマネキンには冬物のアイテムが飾られている。その一つにサンタ服を着たマネキンがあった。
三角帽子に上半身のシルエットを隠すようなケープコートにレースの付いたスカート。
それが赤と白の特徴的な色でマネキンを着飾っていた。

「……こういうのをジャーニーが着ても可愛いかも」

ジャーニーは黒色のイメージがあるが、勝負服のスカート部分やネイルにはアクセントカラーとして赤が入っている。
それを前面に押し出しても彼女なら上手に着こなせてしまうだろう。
今年はさすがに間に合わないが来年のクリスマスイベントなどがあったら彼女を推薦してみてもいいかもしれない。

「あの、トレーナーさん」
ショーウインドウ前で足を止めていた自分に対して彼女は前を進んでいたのか、こちらに戻ってきながら声をかけてくれた。
「どうかされましたか?」
「あ、ごめん!服見てたら考えこんじゃってた。行こうか」
「……えぇ、行きましょう」
彼女はそんな自分に追いつき隣を歩く。その後は軽く食事をして帰路に付いた。

クリスマスイブ当日
トレーニングも終わり事務仕事を片付けた頃、トレーナー室のドアがノックされる。
「お疲れ様ですトレーナーさん」
ジャージ姿から制服に着替えた彼女が現れる。
「お疲れ様。今ちょっと時間ある?」
「はい、もちろんです。プレゼント交換、ですよね」
「うん。というわけではいこれ」

自分は引き出しの中から長方形の箱を取り出す。赤いリボンでラッピングされた黒の化粧箱を彼女に手渡す。

「メリークリスマス」
「ありがとうございます。今開けても?」
「もちろん」

彼女は嬉しそうな表情を見せ、リボンを解き上蓋を外す。

「なるほど手袋ですか」

自分がプレゼントしたのは黒い革製のグローブだ。ウマ娘と言えども今年の冬はとても寒い。特に彼女の指先は細く、冷えていそうだなと感じたため、手首まで覆えるロンググローブをチョイスしてみた。

「どうかな?」
「ちょうど、手袋を購入するか検討していたところだったので嬉しいです。ありがとうございます」
彼女は笑顔をこちらに向けてくれている。その笑顔を見れただけで今日は大成功だと感じた。

「では私からもプレゼントをお返ししないとですね」

そう言って彼女はトレーナー室のドアを開け外に出ていこうとする。
「えっ?」
「トレーナーさん」

ドアを閉めながら彼女はこちらを見る。
「少々、お待ちを」

パタン。

静かにドアは閉められ、自分は部屋に一人取り残された。
暖房の効いた部屋で自分は考える。

「えっ、もしかして結構な大きさのプレゼントとか?」
手荷物サイズのプレゼントであれば先ほど自分が渡したタイミングで返してくれていただろう。
しかし彼女はここに来た時手荷物のようなものは持っていなかった。
ということはすぐには持ってこれないような物なのか?
自分は手袋しか渡してなかったけど釣り合ってるのか?
というかもし大きい荷物なら手伝いに行った方がいいのでは?

ガチャッ。

うん、そうしよう今から彼女の元へ行こう。

そう思い振り返ると

「お待たせしました」
「わー!!!」

急に声をかけられ思わず叫んでしまう。
「大丈夫ですか?」
「あ、うんごめん。ただビックリしただ……け……」

そう言いながら声をかけてきた人物に目を向け固まってしまう。
「あの、トレーナーさん?」

そこにはジャーニーが立っていた。しかし、その服装は先ほどと違っていた。

「ジャーニー、その服……」
「ああ、この服ですか?今日はクリスマスイブですから」

三角帽子に上半身のシルエットを隠すようなケープコートにレースの付いたスカート。
腰には太い黒色のベルトが巻かれている。赤と白の特徴的な色でジャーニーは着飾っていた。
普段の彼女からは想像つかない鮮やかな色合いとふわふわとした印象を受け可愛いと思った。
それと同時に脳裏にあることがよぎる。

「ジャーニー、もしかして聞いてた?」

有マ記念の帰り道。ショーウインドウに飾られたサンタ服姿のマネキンを見て自分が思わず口にした言葉を思い出す。

「さて、何のことでしょうか?」

彼女は顎に手を当て考える素振りをする。
「あ、それ……」
自分はある事に気付く。
「せっかくですので貴方から頂いたプレゼントを付けてみました」
そう言う彼女の両手には手首まで覆われた革製の手袋が付けられている。その黒さは余りにも異質で妖艶さを醸し出していた。

「トレーナーさん、今の私は『どう』ですか?」
彼女は上目遣いのしながら聞いてくる。
「か……と、とても似合ってるよ」
「……ふふ」

彼女は自分が口ごもってしまったことに軽く笑みをこぼす。恥ずかしくなった自分は慌てて口を動かす。

「あーそうだジャーニー。ジャーニーからのプレゼントって何?」

その言葉を出した瞬間、部屋の温度が下がったような気がした。静まった室内に音が一つ増える。
それはくつくつと笑いを堪えているのが漏れ出てしまった音。その音の発しているのは彼女からだった。

「本当に貴方はおかわいらしい人だ。いつもの素直な貴方の方が私は好きですよ」

そう言いながら彼女はこちらを見つめる。

「貴方が望んだ姿ですよ。いかがですか?」

やっぱり聞かれていたと分かり、自分でも分かるくらいに顔が熱くなっていた。
そんなドキドキしている自分を見ながら彼女は両手を持ち上げ

「ほら、おいで」

甘く優しく声を掛けてきた。

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全文(3933字)は小説で
novel/23659215

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2024-12-23 22:00:05 +0000