奈良県吉野山中、吉野郡川上村伯母ヶ峰でいう妖怪で、一本足、一本だたら、為笹王、熊笹王、生笹などと呼び名が多い。
昔、奈良県の天ヶ瀬(上北山村)に射馬兵庫という武士が毎日犬を連れて山狩りをしていると伯母ヶ峰峠の奥深いところで犬が吠えていた。これは熊笹が背中に生えたイノシシが現れたので撃って退治した。(片足を撃ったとも)。そして数日後に湯の峰温泉(また兵庫県神戸市の有馬温泉とも)に足を痛めた野武士が現れて「静かな離れを貸してくれ。寝ている時は誰も来てはならないし決して覗くな」と言った。
宿の主人が武士の履物を片付けに出ると草履は藤蔓で作られていて人間のものと思えない形をしていたので主人が部屋を覗くと座敷いっぱいに背中に熊笹の生えた怪物が寝ていた。
夜が明けると武士は「姿を見られては仕方がない。わしは兵庫に討たれた伯母ヶ峰の猪笹王の亡霊だ。兵庫は特に恐ろしくないが、彼の持つ溝筒の鉄砲と犬は邪魔になる。それらを手に入れたいので何とかしてくれ。」と話した。
その後、役所から兵庫に使者を立てたりしたが兵庫は聞き入れなかった。
後に猪笹王の亡霊が一本足の鬼と化して伯母ヶ峰に現れては旅人を取るようになったので、東熊野街道は寂れたという。
丹誠上人が地蔵尊を作り経堂塚に経文を入れると再び人が戻ってきた。
ただし、果ての二十日(12月20日)だけは鬼が自由になる条件をつけたので厄日とされた。
溝筒の鉄砲は天ヶ瀬の社に祀られたという。
参考文献
朝里樹監修 御田鍬 木下昌美著「日本怪異妖怪事典 近畿」
画 水木しげる 編著 村上健司「日本妖怪大事典」
2024-12-20 11:08:46 +0000