新聞部ミツバチクラブ失踪事件第三作目「タホ」より
ナイトカフェ「タホ」で働き始めた10歳の春原史郎は、賃金は毎月5銭ととても安かったが、同級生の昭美と共にチケットをさばいたりする仕事はとても楽しかった
しかし優しいが、見栄っ張りの店長の「アメリカの大女優アデレード・アダムスを呼んだぞ」という大法螺がきっかけで、顔も女性のように可愛く、まだ声変わりもしていない史郎が女装をさせられて、アデレードとしてステージに立たされてしまう。恥ずかしいほどの色っぽい衣装を着せられて、ピシリと七三に整えられたブランドの髪を、バサバサに逆毛を立てられてパーマに見せかけられてしまう。しかもメガネを取られてしまったために、ほぼ盲目状態の弱視の史郎は何も見えない。もちろん、観客たちの顔も。位置の感覚で移動したり踊るしかない。
史郎は一度、アデレードのピアニストをしているため、アデレード本人からスカウトをされた経験もあって、彼女の顔を知っている。史郎よりも何十歳も年上だ。だからすぐにバレると思っていたが、ファンであっても本物のアデレードの顔を知らない日本の人たちは、誰も気づかず、みんな史郎をアデレード本人だと思っている。
もしこれで歌もダンスも下手となれば、すぐバレていたと思うが、この時ばかりは皮肉にも、史郎は歌もうまく声もきれいで、バレエを教わっていたためダンス能力にも闌けていた。
みなは史郎の美しい歌声と踊りに魅了されていく。が、史郎は嫌で嫌で仕方なかったが、その代わりお給金は上げてくれると約束された。
2024-12-20 01:01:30 +0000