私の名前は夏樹(なつき)。向かい合っている彼女は玲奈(れな)。私たちは小学校の頃からの親友だった。いや、正確には、親友だった「はず」だ。
玲奈と私は今、互いの顔をじっと見つめている。言葉はない。ただ、目だけが交わされている。彼女の赤みがかった髪は太陽の光を受けて、まるで燃え立つように輝いていた。前髪は均一にカットされ、その端正な顔立ちを際立たせている。一方で私の髪は明るい金色に染めたストレートで、青いインナーカラーがほんの少し覗いている。これは、玲奈とは違う自分を求めた結果だった。
どちらも制服姿だが、着方には違いがある。玲奈のネクタイはきちんと結ばれていて、シャツの襟もピンと整っている。対して、私は第一ボタンを外し、タイはゆるく結んだまま。いつからこんなにも「違う」人間になってしまったのだろうか。
背景には何もない白い空間が広がっている。それが余計に私たちを際立たせているようだった。まるで二人だけがこの世界に取り残されているかのようだ。
玲奈の鋭い視線は私を刺し貫くようだった。その瞳は深い赤みを帯びていて、私の中の弱さや迷いを容赦なく見透かしている気がした。私は必死に目を逸らさないように耐える。彼女の唇が微かに動いた。「どうして、こんな風になったの?」
玲奈の声は静かで、それでいて鋭かった。私は答えられず、無言のまま唇を噛む。けれども、喉の奥から声が絞り出される。「玲奈こそ……どうして私を裏切ったの?」
彼女の顔に驚きの色が浮かぶ。そして、それはすぐに怒りに変わった。「裏切ったのは夏樹の方じゃない。私たちは一緒に進むはずだったのに、どうして離れていったの?」
言葉の応酬が始まる。お互いの言葉が重なるたびに、過去の記憶が蘇る。小学生の頃、二人で秘密基地を作った夏の日。中学生になり、同じ部活で切磋琢磨した日々。そして、高校に進学してから徐々にすれ違い始めた日々。
私たちはいつからこうなってしまったのだろう。思い出は鮮やかなはずだったのに、今ではその鮮やかさが痛みへと変わっている。それぞれが自分の「正しさ」を抱え込み、相手を拒絶してしまった。その結果、ここにいるのは、かつての親友ではなく、互いを敵視するようになった二人だ。
玲奈が一歩近づいてくる。その動きに私は本能的に後ずさる。けれども、彼女の言葉が次の瞬間、私を止めた。「それでも、私は夏樹が好きだったよ。ずっと。」
その言葉が私の心をざわめかせる。彼女の瞳に浮かぶ涙を見たとき、私は自分の胸の奥にしまい込んでいた感情を思い出した。私も玲奈のことを失いたくなかったのだ。それなのに、私は彼女を遠ざけることでしか自分を守れなかった。
「玲奈、私……ごめん。」気づけば、私も涙を流していた。
その瞬間、世界が揺らめく。玲奈が消えそうに見えた。いや、違う。消えるのは私の方だ。気が付けば、私は鏡の前に立っていた。そこには、玲奈の姿をした「私」が映っている。
「そういうことか。」私は小さく呟く。玲奈は私の中のもう一人だったのだ。対立していたのは、私と私自身。玲奈との記憶は、私が作り上げたもう一つの人格の象徴だったのだ。
泣き笑いしながら私は言った。「私、玲奈。あなたが必要だよ。」
鏡の中の玲奈は微笑んで消えた。それでも私は分かっている。彼女は消えたのではなく、私の中で一つになったのだ。
これからは、自分を否定せずに生きていこうと思う。玲奈が教えてくれた絆は、私と私自身を繋ぐ大切なものだったのだから。
外に出ると、太陽がまぶしく輝いていた。私はその光の中に一歩踏み出す。玲奈と共に、新しい自分として歩むために。
2024-11-23 12:06:45 +0000