桃色の短髪に、鋭い目をした女。だけどその声は死んだ艦長と同じ、低く落ち着いた男の声。仲間たちは彼女を「艦長」と呼び、何の疑問も持たないようだった。
どういうことだ。艦長は確かに男だった。けれど今、目の前にいるのは女性。それでも、仲間たちにとっては死んだ艦長その人にしか見えていないようだ。まるで彼ら全員が幻影でも見ているのか。
俺たちの任務はハワイから孤立している敵の空母を叩くことだと聞かされていた。だが、どうにも腑に落ちない。真珠湾には戦艦が美術館のように並んでいるというのに、なぜそこを攻めない?それどころか、作戦の全貌すら艦長は話そうとしない。
物資の量も異常だった。日本からハワイまでの往復で到底使い切れないほどの食糧、弾薬、戦車、航空機。それに紛れ込むドイツ製の戦車や8.8cm砲。格納庫に収まりきらず、甲板に野ざらしになったそれらは、潮風にも錆びることなくピカピカだった。一体どこからこんなものを調達したのか。
俺の疑念は膨らむばかりだった。夜中、船尾で葉巻を吸っている艦長を見つけた時、とうとう我慢できず問い詰めた。
「艦長。」
艦長――いや、あの女は振り返らずに応える。死んだ艦長の声で。
「なんだね?」
俺は一歩踏み出し、言葉をぶつけた。
「なんで空母1隻叩くのに、こんなに物資が必要なんです?それにドイツ製の戦車まで。全部おかしいじゃないですか!」
艦長は静かに葉巻をくゆらせながら言った。
「必要だからだ。それ以上をお前が知る必要はない。」
「極秘、極秘って、何なんですか。それに、艦長が女だってこと、バレたらどうするつもりですか?」
その言葉に艦長が振り返る。艦長はしばらく俺を見つめた後、ふっと短い息をついた。
「もしや……お前、私が女に見えるのか?」
「はい。艦長だなんて到底思えない。どう見ても桃色の髪の女です。」
その瞬間だった。艦長が葉巻を捨て、ゆっくりと手を合わせた。そして、次に口を開いたとき、その声は男のものではなく、女性のものに変わっていた。
「ごめんなさい。」
俺は驚いて言葉を失った。
艦長――いや、この女は続ける。
「私たち――いえ、あなたたちにとっても、倒さなきゃいけない敵があの空母にいるの。」
「敵……?」
「そう。」
その瞳には、俺たちが知らない何か深い闇を感じた。
「今、世界ではあなたが想像もしないことが起きている。私たちは、それに立ち向かわなきゃいけないの。」
俺の中にあった疑念と怒りは、次第に不安と混乱へと変わっていった。
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2024-11-20 23:00:01 +0000