私の名前はリナ。つややかな青髪が肩を揺らし、夜空の星がその色に溶け込むように輝いている。今日は特別な日、私がこの一年をかけて準備してきた日。小さな両手にケーキをのせ、慎重に足を進める。
ドレスは白を基調に、胸元に黒いリボンがひとつ結ばれている。袖のふちにはふんわりとしたフリルが施され、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる。胸元には、紺色の小さな宝石が輝くネックレスをつけた。それは彼が、去年の誕生日に贈ってくれたものだ。あの夜の静かな笑顔と「リナの幸せを祈って」という言葉が、今でも耳に残っている。
ケーキは小さめのホールケーキで、真っ白な生クリームがふんわりと広がり、その上には鮮やかな赤いイチゴが飾られている。ケーキの中央には五本の細いキャンドルが立てられ、それぞれのろうそくが小さな炎を揺らしている。ロウソクの火が、まるで私の胸の奥で燃える想いを映し出しているかのようだ。
「ねぇ、おじいちゃん…今日はあなたの誕生日よ」
星空を見上げて、そっとつぶやく。去年、おじいちゃんがこの世を去った夜、私たちの家族はこの丘で空を見上げ、星になった彼を偲んだ。それ以来、毎年こうしてケーキを持ってくることが、私の小さな誓いになっていた。
少し冷たい夜風が頬をなで、ケーキの上のロウソクの炎が揺れる。その揺らめきに、おじいちゃんが隣に立っているような気がして、私は思わず微笑んでしまう。
「本当はね、最初は嫌だったの。おじいちゃんに会えなくなったのが寂しくて、ずっと泣いてた。だけど…」
星明かりの下で、私は少し肩をすくめた。おじいちゃんが最後にくれたこのネックレスは、私に強さをくれたような気がする。それは、私がどんなに寂しくても、彼がそばにいて見守ってくれている証のように感じられたからだ。
ロウソクを眺めながら、私は思い出に浸る。おじいちゃんとの思い出はどれも温かくて、優しくて、まるで春の陽だまりのようだ。彼と過ごした日々は私の宝物であり、今でも私の心に刻まれている。
「おじいちゃん、ありがとう。いつも見守ってくれて…いつも私のことを気にかけてくれて…」
私は少し照れくさくて、小さな声でそう言った。ケーキの上で炎がふわりと揺れ、まるで「うん、わかってるよ」と答えてくれているようだった。
彼は、私に自分で道を切り開く強さを教えてくれた。何か困ったことがあったら、「リナ、お前は大丈夫だよ」と優しく笑ってくれたことを思い出す。その笑顔が、今でも私を支えてくれる。
ふと視線を落とすと、自分の足元に花びらが一枚舞い落ちた。それは、薄紫色の野の花だった。おじいちゃんが生前に「これはリナに似てるんだ」と言ってくれた花だ。おじいちゃんは、私のことをまるで特別な存在のように扱ってくれた。そんな彼が、今でも私を見守ってくれていることが、なぜだか心にしみる。
「ねぇ、おじいちゃん、私は今も変わらず、あなたに感謝しているよ。そして、ちゃんと強くなれたと思う」
言葉を口にするたび、心が軽くなっていく。いつの間にか、目には涙が浮かんでいたけれど、それは悲しみの涙ではなかった。むしろ、心が温かく満たされるような、そんな涙だった。
最後に、ロウソクの火を一つ一つ、静かに吹き消していく。炎が消えるたびに、おじいちゃんとの思い出がふんわりと浮かび上がり、そして胸の奥にしまい込まれる。
「おじいちゃん、また来年もここに来るからね。だから、安心して見ていて」
ロウソクを吹き消し終えた後、私はしばらく空を見上げていた。夜空には無数の星々がきらめき、その中のどこかに、おじいちゃんもいるのだと思うと、自然と微笑みがこぼれた。
私はそっと目を閉じ、夜風に身を任せる。ふんわりとしたドレスが風に揺れ、青髪が夜の闇に溶け込むように流れる。今、この瞬間が、私にとっての「ありがとう」を伝える大切な時間なのだ。
心の中で「またね、おじいちゃん」とつぶやきながら、私はそっと足元にケーキを置き、最後に祈りを捧げた。おじいちゃんが幸せでありますようにと。
しばらくその場に立ち尽くし、彼に届けたかった想いがちゃんと伝わった気がして、満ち足りた気持ちで丘を後にする。
2024-11-15 04:01:48 +0000