私、春風七海は、母の形見である黄色いリボンを整えながら、目の前に浮かぶ巨大な熱気球を見上げていました。青と黄色のパネルが鮮やかな風船は、朝もやの中でまるで夢のように揺らめいています。
白いブラウスに黄色いリボン、そして金色の飾り紐が付いた制服は、この特別な日のために選びました。長い黒髪が風に揺れる度に、心臓が高鳴ります。紫がかった瞳に映る景色は、いつもと違って見えました。
「お嬢さん、準備はよろしいですか?」気球のパイロットが声をかけてきます。背後では他の気球も次々と膨らみ、オレンジや青の色とりどりの風船が朝日に輝いていました。
実は、この旅には秘密があります。母が残した日記に書かれていた不思議な場所を探すこと。「空の上の約束の地」と呼ばれる場所で、母は何かを見つけたと書いていました。でも、その続きのページは破れていて...。
気球は徐々に上昇し始め、地上の景色が小さくなっていきます。緑の草原が広がり、街並みが玩具のように見えてきました。風が髪をなびかせ、制服のスカートがひらめきます。
高度3000メートル。母の日記に書かれた「虹色の雲を越えたその先に」という言葉を思い出します。突然、前方に奇妙な光の渦が現れました。「あれは...!」思わず声が出ます。
私たちの気球は光の渦に吸い込まれていきます。怖いはずなのに、どこか懐かしい気持ちになりました。目を開けると、そこは...想像もしなかった光景が広がっていました。
空に浮かぶ島々、キラキラと輝く不思議な鳥たち、そして...母の姿を見たような気がしました。でも、それは違いました。映し出されていたのは、幼い頃の私自身。母は私の中に生きていて、その優しさと冒険心を受け継いでいたのです。
気球は静かに元の世界へと戻っていきました。帰り道、私は理解しました。探していたのは遠い場所じゃなく、自分の心の中にあったものだと。黄色いリボンをきつく握りしめながら、空の向こうに広がる新しい冒険へと、私の物語は続いていくのです。
母が残してくれた勇気と、自分で見つけた夢。それを胸に、これからも空を見上げ続けようと思います。風に乗って響いてくる母の声が、私の背中を優しく押してくれているような気がしました。
2024-10-28 13:10:00 +0000