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そして唯の退院前日。
研一「おはようございます!(めっちゃ元気)」
| -`)お、おぅ、おはよう⋯(たじろぐ)
研一「静さんおはようございまっス!今日も02のチューニング頑張りますよー!!」
その様子を見ていた日和が、俊に近づいて耳打ち。
日和「⋯おとーさん、研一さん大丈夫?アタマどっか打った?」
| -`)知るかよ⋯まあ後で聞いてみるか
仕事中。
| -`)研一、ちょいちょい
研一「ん?どうしたんすか?」
| -`)02チューニングの件で。コーヒー飲みがてら。
研一「はーい。主任、ちょっと席外します」
⋯
| -`)⋯んで?何がどうしてそんなテンションになってんだ?
研一「ん?何がっすか?」
| -`)とぼけんな。⋯昨日まであんなにがっくりしてたのに
研一「静さん、俺、唯のこと助けにフランス飛んだ時あったじゃないっすか、その時のことを思い出して」
| -`)⋯なんかあったっけか
研一「⋯俺の中では覚悟を決めた瞬間だったんです。『俺はこの笑顔を守る』って。そのことに立ち返って」
(参考:覚悟を決めた瞬間→ illust/118429880 )
| -`)⋯そうだったんか。焦ったぞ、いきなりのあのテンション
研一「すんません。⋯それに、ちょっと作戦も立てましたし。先日の日和さんのアドバイスから」
| -`)作戦?
研一「こうなりゃ、多少荒っぽくてもバカでもなんでもいいんで、トラウマを解消させにゃなりませんからね」
⋯
⋯⋯
⋯⋯⋯
そして翌日、退院日。
医師に簡単な挨拶を済ませると、唯、あい、翼、そして研一の四人は研一の車に乗り込む。唯はまだ沈んだ表情をしており、あいも翼も言葉数は少ない。
研一「⋯唯、ちょっと寄り道していい?」
唯「いいけど⋯買い物?」
研一「んー⋯無くしたものを取り戻しに行く」
唯「何それ?」
研一「いいから」
そうして車は、黒川家とは反対方向に向かって走っていく。
翼「研一兄さん、どこまで行くんですか?」
研一「んー?まだ内緒。そこまで遠くには行かないよ」
あい「私たちもいるんだけど?しかもお姉ちゃん、病み上がりだよ?」
研一「だーいじょーぶ。唯に無理はさせられないし、⋯あいちゃんと翼ちゃんにも、『ちゃんと見届けて欲しい』から」
あい翼「「?????」」
15分ほど車を走らせると、車は海岸公園の駐車場に入った。夕焼けがそろそろ、西の空に吸い込まれていきそうな時間だ。
唯「ここ?」
研一「⋯少し、歩くか」
車を降り、人が全くいない砂浜に降りる。ザザァ⋯という、波の音が心地良い。
あい「研一さん、ここで何を⋯?」
唯「もったいぶらずに教えて?」
研一「そうだな、ここら辺でいいか」
四人は歩みを止める。研一は、隣に立つ唯を真正面から見つめる。
研一「⋯黒川唯さん、私はあなたが好きです。愛しています」
唯「は⋯!?」
唯の両手を研一は握る。その様子を、あいと翼は離れたところから固唾を飲んで見守る。
唯「どういう、つもりですか」
研一「俺、馬鹿だからさ、周りくどい言い方も出来ないし。隠し通すことも出来ないから言うけどさ、⋯あの病院で、看護師さんたちの話、聞いちゃったんだよ」
唯「!?」
研一「ごめん唯!そんなつもり無かったんだ!」
研一は腰を90度に曲げて謝罪する。
唯「け、研一さん!?顔をあげてください!!」
研一「でも!それで唯を傷つけてしまった!だからすまない!!」
翼はオロオロ。あいは言いたげだったが、言葉を飲み込んだ。
唯「⋯顔をあげて、研一さん」
柔らかい口調で唯は話す。その口調に、研一は顔をあげた。
唯「⋯確かに、あの病院で私が一命を取り留めるのは、2回目。しかも研一さんはそんなこと知らなかったわけだし、あのタイミングで病院に入っていなかったら、私ICUだったんでしょ?⋯だとしたら、それは逆に感謝しなきゃならないくらいだし」
研一「いいんだ。だって俺⋯唯のこと、本気で愛してるんだから」
唯「それでもよ。親しき仲にも礼儀あり、って言うでしょ?」
研一「でも!それでも俺は、唯にもうこんな過去のことで縛られて欲しくないんだ!」
唯「けん⋯いちさん⋯!?」
研一「俺は唯と幸せを掴みたい。悲しいことは分け合いたい。そして最後に笑っていたい、ただそれだけを考えてんだよ」
研一はゆっくりと、唯を抱きしめた。
唯「⋯っ!」
研一「⋯こうして抱き留めるの、二回目か。でもさ、これから何度でも⋯、それこそどっちかの寿命が尽きるまで、俺はこうしていたい」
唯「えっ⋯!?それって!?」
研一「⋯結婚しよう唯。そして新しい家族を作って、あいつらに見返してやろう。もちろん、あいちゃんも、翼ちゃんも」
唯の目からは、ボロボロと大粒の涙が流れ出す。
唯「⋯ほんとにいいの!?私、過去に⋯!」
研一「この前にも俺言ったよな、『俺が幸せにしてやる』って。あの約束、まだ叶えきれてないし。今までのこと、全部チャラにできるくらいにしてやんねえとな」
唯「う⋯うわぁぁぁぁぁん!!」
唯は大声をあげて泣き出した。研一は優しく、その体を抱きしめる。
研一「いいんだ唯、辛いことがあったら言ってくれ、嬉しいことがあっても言ってくれ。俺バカだからさ、言われないとわからないし、変に考えて落ち込んじゃうし。⋯だったら、最初から二人で乗り越えていこう」
唯「ああああああ!!研一さん!!研一さん!!あぁぁぁぁ!!」
あい「⋯もちろん、私もいるからね、お姉ちゃん」
翼「ボクだって」
一部始終を見届けた姉妹も、唯を囲むように寄り添う。波の音は優しく、四人を包み込むようだった。
(参考:『俺が幸せにしてやる』→ illust/118609457 )
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2024-10-27 03:00:52 +0000