何という事だろう。まさか、こんな標高の高い山道で奇妙な存在に出会うなんて
白くて狐みたいな耳と尻尾を生やした謎の女の子…とりあえず白髪狐耳少女と呼ぼう
眠りから覚めた白髪狐耳少女は半身を起こし立ち上がろうとした
かと思ったら仰向けになって再びその場に寝転んでしまった
その様子からは心なしか元気がないように見えた
「あの、大丈夫?具合でも悪いの?」
つい先程まで少女に怖気づいて腰を抜かしていた僕がそう言うのも何だが、やはり心配なので少女に問いかけた
すると、少女はやや気怠そうな声で答えた
「…おなかすいた」
「へ?」
おなかに手を当てて天を仰いでいた少女は、ゆっくりと顔をこちらに向けて
「君の方から何かの甘い匂いがする。ねぇ、それちょうだい」
そうこちらに訊いてくる
初めは、何の事を言われているのか分からなかった。
人生最期の日と決めて家を出た僕は手荷物はおろか、心もポケットも空っぽで来たはずなのだから。
そう思っていると、不意に左ポケットの異物感に気付いた
ポケットを探ってみると、何かが入っているようだった
取り出してみると、なんとそれは先日買ったチョコレートの包みだった。
「残りの一個…。まだポケットに残ってたなんて…」
自分でも気付かなかった
「ど、どうしてわかったの…?」
驚きを隠せない僕が尋ねたけれど彼女に
「さあ、なんでだろうねぇ」
そうはぐらかされた
「そんな事より、早くちょうだい。あんまり動けないから食べさせてよ」
またいつの間にかうつ伏せになっていた彼女は縋りつくような眼差しをこちらに向けながら見上げてくる
そして、尻尾を力なく左右に揺らしていた
僕はため息を吐くと、銀紙に包まれているハート型のチョコレートを少女の口元に差し出したのだった
2024-10-10 13:52:22 +0000