貴族の女性にとって日焼けは避けるべきものである。
貴族女性は普段から外出時に太陽の光に肌を直接晒すことを避けているが、日差しが強くなる季節は特に入念に日除けに注力する。
1~7枚目
長袖のドレス、ロングスカートを身にまとい、手袋を着用し、頭部を保護するためにヘッドボンネットやフードを被り、マントを羽織る貴族の少女。
もちろん、日差しからの保護は顔に対しても徹底される。まず、内側に装着されるインナーマスクが鼻と口、頬から首筋にかけてを覆う。インナーマスクは伸縮性に富んで肌触りがよく後述のセラミックマスクを装着する際の負担軽減にも一役買っている。
顔への光の浸透を完全に遮断するために外装としてセラミック製のマスクが装着される。セラミックマスクは装着者の顔に合わせてオーダーメイドで製作されているため内側には余裕がほぼなく、後頭部でストラップを締めるとマスクは顔にピタリと密着し、口もほとんど開けず会話が困難になるほどである。また、呼吸孔も目立たない位置と大きさで開けられているため呼吸も自然と制限される形になる。
ただし『公の場では口を開かず、大きな動きもせずに静かにゆっくりとした動作で振舞うのが上品な淑女である』という共通認識が貴族社会にはあるため、マスクの装着によって会話や呼吸が制限されるのは貴族女性としてのあるべき立ち居振舞いを装着者に意識させるために『あえてそうなっている』のである。
目元はバイザーでカバーされる。バイザーは視界の確保と日除けを両立させるためにちょうど目の大きさに穴が開けられていたり無数の小さな穴が開いていたり、目穴が網目状になっていたりと各自工夫が凝らされている。
8~15枚目
衣服で全身を覆い、顔もマスクとバイザーで覆い隠して徹底的に日除けするのは貴族女性の嗜みである。
だが、そこからさらにもう一歩踏み込む者もいる。
『日焼けの原因は肌が直接太陽に焼かれるだけではない。太陽の光が目から入ることでも日焼けは発生する。脳が太陽の光を認識することで日焼けをするよう肌に命令を発してしまうのだ』
ある宮廷魔術士がこのような新説を発表した。その宮廷魔術士はいままでも数々の研究結果を発表しては従来の常識を覆してきた天才であった。
つまり、日焼けを防ぐためには肌を衣服で覆い隠すだけでは不十分であり、より完璧を期すならばその上で目隠しをしっかりと着用してわずかな光さえ認識しないようにする、ということになる。
もちろん、目隠しを着用して光を認識しないようにするということはすなわち、視界は完全な暗闇となりなにも見えないということである。それは非常に不便であり、また危険でもある。しかし、日除けに熱心な貴族女性の中には自身の肌を美しく保つためならば目隠しの着用も厭わない者も一部にいるようである。
また、中には名誉ある高貴な家柄の一員として、家族や仕える従者の期待に応えるために『そうせざるを得ない』貴族女性もいるようである。
目隠しで視界を閉ざされた状態でも従者の助けを借りることで外出をすることができる。従者の存在は目隠しをした(された)貴族女性の大きな助けとなるが、逆に言えば、従者のサポートを常に受けられる立場であるからこそ、目隠しの着用を断れない、拒否するための明確な理由を挙げられない、ともいえる。
裕福で贅沢な暮らしをしていると思われがちな貴族の女性であるが、やはり彼女達なりの苦労というものを負っているのである。
2024-07-12 00:15:07 +0000