大陸を、自然を、歴史を、営みを、命を食い荒らす音が聞こえる。
遠く見えていたその異形は、瞬く間に境目の町、ボルダーへとその大口を向けていた。
その口を苛立ち気に見つめ、タイガーは舌打ちする。まだ避難が出来ていない市民が残っているからだ。
ツムジカゼやリジュールの手を借りてはいるものの、あと少しの時間が欲しい。一瞬でも奴の動きが鈍れば、最低でも子ども達だけでも逃がす事が可能なはずだ。
あの全てを吸い込む口は、少し近づくだけで何もかもを胃袋へ収めてしまうだろう。まともな攻撃も効果があるとは思えない。
しかし、だからといって逃げる事など、タイガーの頭の中には無かった。
「マルウィル!」
避難誘導作業にあたっていた愛娘へ声をかけるタイガー。
その目は、一つの覚悟を抱いていた。
「……!タイガー!だめ、貴女も一緒に……!」
マルウィルはその覚悟を察し、タイガーを止めようとする。しかし、タイガーの意思は固いようで、ただ娘の頭を優しく撫でた。
「お前は生きろ。でなきゃ、誰が『マイタイ』を継いでくれるんだい?……タエニア、娘を頼む」
「……わかったわ」
「い、いや!ダメ、待って!!……お母さん!!」
マルウィルの懇願を受けながら、タイガーは背を向けた。
ほんの少し、ほんの少しだけ時間を稼げればいい。そうすれば、全員とはいかなくても多くの市民の命は守れるはずだ。
「やだ女将さんかっこい〜!アチシも行く〜!」
「全く、ワタクシを置いて行こうなんて完璧ではないデスわ!」
「………………」
いざ、と足に力を込めようとした時、後ろから声をかけてきたのは、マイタイの一部の従業員達だった。
「バカ、お前らも避難しろ!」
「我に命令するな、我は我のしたい事を優先する」
「んふふ♡エラルドってば素敵♡……私達も一緒に行くわマスター」
全員の目には、迷いも恐れもない。自分たちがすべき事を成す為に、覚悟を決めた女の顔と言うものは、それは美しく勇ましいものだった。
タイガーはやれやれと頭をかき、もう一度だけ振り返って叫んだ。
「じゃあな!愛してるぜ、我が娘よ!」
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公式展開を受けまして、女傑酒場『マイタイ』【illust/117046603】は悪食王に街ごと食われ、店主であるタイガー他、モブ店員のトパズマヌ、シットリー、クァツレット、エラルド、コーギャーが現状ロストとなりました。
副店主のマルウィル、モブ店員のアイオ、オニキュス、アミジ姉妹、ムゥンは街から離脱し、リジュールへ避難しました。
過去に交流いただいた皆様方、ありがとうございました!
また、マイタイへ所属している皆様はアフターに新店舗を建設予定ですので、そちらでもどうぞよろしくお願いいたします。
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お借りしました!
タエニアさん【illust/117418318】
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企画元【user/5804799】
2024-07-10 12:03:57 +0000