「ちょっとわかりにくい場所なので…
迷われましたら、ご連絡ください。」
土地勘のない場所で体調を崩した不安が、
受付の女性の柔らかい声で少し癒される。
降り注ぐ蝉の声に耳を塞がれながら、
マップを駆使して1時間も歩いただろうか。
いきなり視界の開けた草っぱらの中に
荒れ果てた白い建物が現れた。
入り口や窓はところどころ板が打ち付けられ、それも朽ち落ちている。
看板の文字もはげていてよく読めない。
明らかに廃病院だろ。
しかしマップの位置は「ここだ」と示している。
暑さと疲れでさらに気分が悪くなる。
先ほどの受付の声が蘇る。
「お電話ください」
何かの間違いだろうか?
しかし何故か私は「ここ」に電話したのだろう、という気がする。
はるか昔、ここに来た記憶すらある気がしてくる。
今2階の窓の奥で動いた白い人影は、
いつも無理やり薬を飲ませる意地悪な看護師ではなかったか。
気分が悪い。
わたしはもう一度受付に電話するべきか迷っている。
2024-07-07 04:29:06 +0000