【ポケサガ】 月見酒 【救国の聖戦】

ぽかちゅう

ある時は某国の戦士として生きた。
戦の才がない己も、仲間と共に助け合えば力になれることを知った。
その国は遠い遠い昔に滅びてしまったが。

ある時は街々を巡る商人として生きた。
長らく生き重ねてきた知恵は、どんな場面でも武器になることを知った。
その商団はやがて土地に根差し、商業都市として名を馳せた。

ある時はとある集落の祭司として生きた。
祀りごとに思うところがあったが、信じることで救われる者もいると知れた。
その場所はある冬の寒波を耐えきれずに潰えた。

ある時は万人のためにある医療施設に身を寄せていた。
たったひとつの小さな命を助けた時、かけがえのないその尊さを知った。
彼らはきっと今なお、世界のどこかで消えかけの命を救っているのだろう。

幾万の出会いと、別れと、喜びと、悲しみと、思いやりと、裏切りを繰り返し――
他者と関わって良かった。最後にはそう思えるからこそ、未だ生き、旅をしているのだ。
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「……そうして今は、気ままに旅をしながら、映画館の宣伝師をしておるんじゃよ」

手元の酒をクイ、と飲みあけながら天華は笑う。
長らく語っていたおかげで月はすっかり高く昇り、2匹の姿を明るく照らしていた。
今宵は満月。
こんな月が綺麗な日は、月明りに酒を煽るのが良い。と彼は調子よく笑う。
さて、おかわりをと脚を伸ばす彼に、徐に安國は口を開く。

「して。ヌシが旅してまで探している者はなんじゃ?」
「………はて、何故それを?」
「言うておったのよ、この墓地に住まう者たちが」
「…口に戸は立てられぬのぅ」

天華は静かに酒を注ぎながら、小さく笑う。
しばらくの間。優しい風が頬を撫で、庭園の花びらが宙へ舞う。
月に映える綺麗な情景を見上げ、彼は思いを馳せるように語りだす。

「少し前のことじゃ。ワシは戦禍に巻き込まれ、死にかけたことがある。
どこぞの兵とも知らぬ奴らに追われ、逃げ込んだ先の森で倒れていたところを、とあるピカ.チュウに助けられた」
「名を、樹の民のベルンハルトという。実直で、大らかで、不器用な男じゃ」

…はぁ、と溜息をつき、天華は樹々の影へと視線を移す。
月明りの下とは言え、樹々が生い茂る場所は暗く、その先を見通すことはできない。
ただ黒い黒い闇があるばかりだ。
地に影が落ちる。月に雲がかかったのだろう。ゆっくりと、まるで樹々の闇が迫ってくるようだ。

「ワシが動けるようになり、お暇しようとした頃合いに、そやつの妻が、行方不明となったのじゃ」
「名をアンネと言う。…聡い娘じゃ」
「そんな彼女を、ベルンは探しきれずにいるんじゃよ。奴は最も大切なものを選べない。
自分の大切な者と、里に生きる者の命とを、天秤にかけられぬのじゃ」
「――じゃから、助けられた命の分だけ、奴の代わりになってやろうと思うてなぁ」

安國は暗がりの中、やるせない顔で笑う天華を見た。
自分よりずいぶん長く外の世界に身を置く彼は、他種族との関わりをひどく好み、入れ込む質らしい。
最初からそうだったのか、それともそう成ったのかは分からない。…なんとも同族らしからぬ者だ。

「……天華や、今や世界は激動の中にある。必ず生きて見つかる保証などなかろうて」
「そう言うな、天道狐よ。言うたじゃろ、ワシは映画の宣伝師だと」
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天華が尾から取り出したのは、小さな白い石碑だ。
何か力が込められているのだろうそれは、細い月明りの下、いやに目についた。

「これがあれば、あの娘の最期を持ち帰れってやれる」
「――例え、死していたとしてもな」


シルヴァチカでのある夜の出来事を投稿させていただきます。
4章期間中の投稿、および他キャラクターを出演させているため、公式サブタグを使用させていただきます。

10年前、瀕死状態の天華がしばらく樹の里にいた設定を公開します。
当時里にいたキャラクターは、そのことを知っていて構いません。その後も何度か里を訪れています。

■お借りしました!
安國さん【illust/118481894
世界設定・庭園墓地 シルヴァチカ【illust/115765928
白い石碑(回収アイテム)【illust/115720872

天華【illust/115723284

#PokeSaga#【ポケサガ:交流】#【ログレイヴ】#救国の聖戦【支配】#神話の始まり【支配】#【樹の民】#【継樹の物語】#【庭園墓地シルヴァチカ】

2024-06-27 12:08:54 +0000