小説フラグメント『最初の召喚』にて
以下小説の一部抜粋
夕暮れの線路沿いを、袴姿の少女が一人歩いていた。
名を由留木ゆるぎアヤという。女学校に通う14歳の少女であった。
アヤはゆっくりと家路をたどる。
踏切の音に、ふと振り向いた。
――アヤ、と。
呼ばれた気がした。
「……凪なぎ……?」
踏切の中に、羽織の少女が立っている。
「な、凪――!?」
目を薄く細め、哀しげに笑う。
「そこでなにしているの……!」
アヤは鞄を投げ捨てて走り出し、踏切の中へ飛び込んだ。煙をあげて走る機関車が迫っていた。切り裂くような汽笛が響く。
凪の手を掴んで、アヤは引っ張ろうとする。
「……どうして来たんだ」
「いいからっ!」
「いや、僕は……」
その瞳を見つめ、アヤは凪の意思を悟った。
「どうして、こんなこと……!」
いつもその目の奥にあるものが、アヤには分からない。だから縋りつくように尋ねて、涙が滲んだ。
「……それはね――」
その時世界がひらめいた。
つないだ手だけがひとつ、確かで。
汽笛と誰かの悲鳴が混じり響く、その瞬間が永遠になる。
「一緒にきてくれるかな? アヤ」
凪はどこかがひどく痛むように、泣き出しそうに顔をゆがめていた。
「……当然でしょう」
手を強く結んで、二人は光の中へ溶け込んでいった。
2024-06-27 06:33:53 +0000