フラグメント『はじめまして、異世界のまおーくん』より
以下小説の一部抜粋
この先の旅は長くなるかもしれない、もしかしたら 本当にもう帰れないのかもしれない。もし仮にそうだとしても、ユキカちゃんだけはどうにかして見つけなきゃ。そしてその後で、できれば……みんなと元の世界に帰る方法を見つけるんだ。
でも……それができるかな。なにもわからない、この不思議な世界で……と、私は少しだけ弱気な視線を送る。
そうしたらシズクは、――全て見通しているみたいに、柔らかく笑った。『大丈夫』と、その目が言う。
私は何だかそれだけで安心して、肩の力が抜けた。そうだよね、いつだって私の隣にシズクがいれば、私は大丈夫だ。
きっと、ユキカちゃんだって見つけられるし、みんなで元の世界に帰れる……。何の根拠もないのに、そう思えてしまう。シズクが私に向ける笑顔にはそんな不思議な力があるんだ。
「でも……この世界で、しばらくやっていかなきゃいけないのかぁ」
「そうだな……」
そんな風に話して、大丈夫かなぁと呟いているユウヤくん達の間に割り込む。
「大丈夫! カオルお姉ちゃんに任せなさい! ねっ?」
元気づけたくてそう言うと、ユウヤくんはくすりと笑う。
「カオルさんが一緒でよかった!」
「ふふん。でしょ?」
その隣でちょっと呆れ顔で笑うユウトくんは一見するとしっかりした子だけど、ふたりともまだ中学3年生だし、こんな状況じゃきっと不安だよね。
春からは高校生になる予定だったのに、もしかしたら、それも……なんて考えたら。
ここに来たのがこの子たちだけじゃなくて良かった、と心から思っていた。
私たちが、この子たちを、ユキカちゃんを連れて帰るんだ。元の世界に、みんなで。――シズクがいれば、きっと大丈夫だから。
「それじゃ、行ってみよっか!」
と私は道の先へ、皆と共に踏み出すのだった。
2024-06-26 02:44:49 +0000