ポチャン――
そんな音をさせて、わたしの剣は泉の中に消えた。
森の中、清らかな水をたたえたその泉の傍を通りぬけようとしたら、うっかり足を滑らせて剣を落としてしまったのだ。
ああ、そんな……どうしよう……
水面に残る波紋を見つめて途方に暮れていると、不意に、まばゆいばかりの光を感じた。
泉の上に光柱が天に向かって真っすぐに伸び、そして、光の中からなにかが現れる。
現れたのは、やわらかそうな生地の白い服をまとった女性――いや、少女というべきだろうか?
背中には白い羽があり、ふわふわと宙に浮かんでいる。人間でないことだけは明らかだ。
顔には目元に目隠しをするように黒い布が巻かれている。けれど、その下の露になっている口元には柔和な笑みが浮かんでいた。
「わたしはこの聖なる泉を司る女神です。冒険者の少女よ、どうやらお困りのようですね」
「は、はい。実は剣を落としてしまって」
「なるほど。では、あなたが落とした物は――」
女神――そう名乗った彼女の右手に、虚空より何か黒いモノが現れた。それは帯状をしていて――
「この[二度と外すことのできない呪われた目隠し]ですか?」
……はい?
なにを言っているのこの人? いや、この女神サマ。
[二度と外すことのできない呪われた目隠し]てそんなもの落とすわけない、というかそもそも持っているわけない。
「あの、違います。というかわたしが落としたのは剣で」
「なるほど。では、あなたが落としたのはこちらの」
女神の左手に、虚空より何か――やっぱり黒いモノが現れた。
「この[絶対に外すことのできない絶望の目隠し]ですか?」
……なんなの?
なんでまた目隠しを出してくるのこの女神サマ? 落としたのは剣て言っているのに聞いていないの? というか、最初と二つ目の目隠しってそれ同じ物ですよね??
「あの、ですから、わたしが落としたのは目隠しではなくて、ごく普通の鉄の剣で」
「まあ! なんて正直な方なんでしょう。あなたの心はこの泉のように一片の濁りもないのですね」
感極まったように天を仰ぐ泉の女神。
「それでは、そんな正直で澄んだ心を持ったあなたには、ご褒美として――」
女神が手を左右に大きく開く。その手には、女神がどこからか取り出した黒い目隠しがいまだに握られている。
急に、あたりが薄暗くなった気がした。
いや、それは気のせいではなかった。女神の周囲で闇が渦巻いている。女神の両手から黒い帯状の闇が際限なく伸びて木漏れ日を遮っていく。
ゾクリと、わたしの背筋に悪寒が走った。
女神の口元ににっこりと、心底楽しそうな笑みが浮かぶ。
「この[二度と絶対に外すことのできない呪われた絶望の目隠し]をプレゼントしましょう!
もちろんっ! あなたのそのきれいな両目に厚く! キツく! 隙間なく! 何重にも巻いて差し上げますからっ!!」
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邪神 瞳ヲ閉ザス女神 が1体出た!
たたかう
⇒にげる
2024-06-20 22:55:03 +0000