夢見る未来の名残

浅霞@フラグメント

創作プロジェクト『フラグメント』
〜夢見る未来の名残〜

以下小説の一部抜粋

一通り小屋の周辺を見て回ってから、私たちは湖を見つめていた。
「ねぇ、これから、どのくらいの時間があるの?」
「それは、まだ……わからないけど、……でも、準備があるから、そんなにすぐじゃないと思う」
「そっか」
 すぐにというのも嫌だけど、残された時間があるというのもなかなか困りものだ。ここでは考える以外にすることはなさそうだし……。
 と考えたところで、ふと思いつく。
「ねぇ、さっき、空を飛んできたよね? あれって、私にもできるようになるのかな?」
「え?」
「私のいた世界じゃさ、人は空を飛べなかったんだよね」
「……そうなの?」
 女の子はちょっと興味を持ったみたい。私の世界についてなら、少しは話題になるかな。不思議な魔法みたいなものはないけど、それでもこの世界の人にとっては珍しいものの話ができるかもしれない。
 私はちょっと考えて続ける。
「そのかわり、飛行機で空を飛んだりしてたわけだけど……この世界には飛行機ってあるのかな」
「ヒコーキ?」
「空を飛べる乗り物って感じかな?」

 女の子は少し想像するように空に顔を上げる。私もそれにならって、元いた世界で空を横切っていった白い飛行機雲に思いを馳せた。
 
「……そんなのがあるの?」
「私の世界にはあったよ」
「そうなんだ……」
 やっぱりこの世界には魔法のような不思議な力がある代わりに、科学技術はあまり発展していないのかもしれない。まあ、魔法で空が飛べるなら、わざわざ飛行機を作る必要もないよね。
「……わからないけど……きっとできるようになると思う。魔力を、感じるから」
「魔力? 私に?」
「うん」
「魔力、かぁ」
 私は自分の手のひらを見つめてみる。何も感じられないけど……この子のことを夢のようにして見たあれも、その「魔力」ってものが関係しているのかな?
「……じゃあ、もう行くね」
 女の子は一歩、下がり、向きを変える。
「あの人のところへ帰るの?」
 私がそう尋ねると、女の子は不意を打たれたように口をつぐんで、それから小さく頷いた。
「そっか」
「……あの」
「うん? なぁに?」
 言葉を待ったけれど、その先はなかった。女の子はふわりと空に浮かび上がる。
「……なんでもない」
 最後にそう言い残して向きを変えると、現れた時と同じように空を飛んで、すぐに木々の向こうに姿を消してしまった。
 私は今度こそ一人、穏やかな湖畔に取り残される。
「行っちゃったかぁ」
 他に誰もいなくなると、周囲は静かに風が吹くだけだ。木々の葉がこすれる音に包まれて、湖の表面をさざなみが撫でていく。
「困ったなぁ……きっと、ユウヤくんたちも心配するだろうな」
 何気なくそう呟いて――。
「……ユウヤくん……ユウトくん?」
 後からざあっと吹き抜けた風に、私は振り返った。
 そこには小屋がぽつんと立っているだけで、他に誰もない。
 それなのに何故か、今も彼らがそばにいるような感覚を覚えて、私はしばらく湖の際に立ち尽くしていた。

#Original#illustration#creation#original

2024-06-18 14:46:16 +0000