「様子のおかしいクーフーリンの話 ~無人島のわんサー×たこチャー~」 2024/6/30開催のJB2024にて新刊発行いたします。サークルスペースは東4す07b。本はA5サイズ164ページ10万字の「成人向け小説」です。 あ○森みたいな島を舞台にした、セクピスパロ(現パロ)です。社会にはじき出された犬神人の重種である槍と、褐色人魚(?)の弓が、動物たちの住む小さくて美しい島で出会ってお互いの顔すらよく知らないまま恋に落ち、四か月のドタバタの末に結婚式を挙げました。というような話です。
試し読みはこちら novel/21921951 サンプル部分は全年齢ですが後半はR18なので当日は年齢確認にご協力くださいませ。
通販はこちら https://ec.toranoana.jp/joshi_r/ec/item/040031160287 おそらく七月半ばにならないと在庫復帰しませんごめんなさい。
以下冒頭部
===プロローグ
ランサーの恋には敵が居た。
自己評価が低く、恋すらボランティア活動の一種と勘違いしていそうな慈悲深き人魚、アーチャーその人が最大の敵なのだ。
よってランサーは決意した。引き留めるためには結婚式でも入籍でも、思いつくかぎりの先手を打って、なにがなんでもやりとげるしかない。
……なお拉致監禁はもうやった。
第一章 三月は素潜り
流れ星を追ってたどり着いた海は遠く凪いでいた。
銀砂をばらまいた濃紺の隙間からそっと覗き込む白い半月。
月光は海底まで届き、サンゴ棚にたゆたう生き物たちの影を浮き出させた。
「ふっ」
飛び込んだ瞬間、足下の生命達がざわめく。
無人島をまるごと買って引っ越してひと月半。好きな時に好きなことをする暮らし。
夜の海を独り占めなんて、以前からは考えられないほどの贅沢だ。きらきらと水平線までつづく光の道(ムーンリバー)をたどって、どこまでも泳いでいきたくなる。
分厚いゴム引きの『マリンスーツ』はほどよく暖かいが、顔は潮に濡れて少し寒い。
――オレが「水もしたたるイイ男」だぜ。好きなだけ見ろよ。
額に張り付く青の前髪をかきあげて月のウサ耳天女に赤の瞳を晒す。
今日の天球には三等星や天の川(ミルキーウェイ)すらキレイに望める。鼻歌の一つも歌いたいような。
――こんなキレイな空なのに、流星はもうこないみたいだな。そんなら、海底の星、いっとくか。
月に背き、水を掻きながら視線を下に。近くにキラっと泡の反射がみえた。ヒトデでなくても、なんだっていい。頭を下に、潜水モードだ。
ん? 白いふわふわが海底に広がった。砂を蹴立て逃げる何かがいる。イイ獲物だ。狩りの本能で、水を掻いて追いかける。
ところがこいつが、めちゃくちゃに早い上に小回りを利かせてジグザグ走法、最後は股くぐりで肩透かし、ときた。必死に水を掻いても方向転換が追いつかず、ゴポっと息が漏れる。
――これだけ足が速いのは今までの経験からタラバガニかダンジネスクラブ、うまくいけばタカアシガニ! カモン高額買い取り品!
でも足も速い・知能も高いじゃ、負けなしの俊足を全力で回しても不利だ。
――こういうときは、だな。
ジタバタせず一度、浮上する。海面に首を出し、すうーと細く長い息で酸素を取り込む。カッとなったら負け。
顔を出したまま、極力波を抑えて水面をそっとすべる。影を落とさない角度から獲物の真上に忍びこめた。
今だ! おもいきり水を蹴り、体を真下に向けて押し込んだ。
逃げ惑う砂煙の逃亡先を封じるように手を伸ばす。足で水を蹴り、体を奥へ……
ようやく手に触れたのは、ゴツゴツの甲羅ではない。
たおやかにたわむ、華奢な円盤。
見た目より重たいそれを潰さないよう両手で丁寧につかみ、水中ターンで水面までもどって月光に曝した。
――おお~、赤い。これは、噂の……、「メンダコ」。
耐水スマホで検索した写真よりも、捕まえた生物のほうがずっと見応えがあった。
フリルつきの赤いフリスビーはくねくねふわふわと柔らかい身を揉む。まるい頭の上で、犬耳みたいな二つの突起がぴるぴる、ぺたぺた、としきりに潮風を扇いでいる。
潜水で息が切れたこっちと良い勝負だ。
「……なんだ、怒ってんのか?」
軍手をした指先でつつくとお腹(?)がへこむ。色もちょっと薄くなる。そうか、イヤか。
「……もしかして……、熱いのか?」
そりゃそうか。恒温動物の体温は海生生物にとっては火傷しそうな熱さだとどこかで見た。
いそいで漁獲物用のビニール袋を出して海水ごとメンダコを封じこめた。それからも漁をつづけ、たっぷりの獲物を抱えて浜辺に上がったとき、素人漁師は鼻歌を歌っていた。
――ムーン、リバー、ワイーダザンマイール……。
★★★
タコのコメント①:
秒針のようにゆっくりと迫る死の宿命から引きずり出されたとおもったら、様子のおかしい人間だった。
とにかく粗雑で乱暴なやつだ。恩知らずめ。
……しかし、おかしいところがある。逃げ切るために無理矢理に変化した私は、変化途中でかなり重かったはずだが。この体躯でこの力が出せるものなのか?
さっさと捕まえて持ち運ばれたあたり、尋常ならざる膂力の持ち主とみた。ならば、剛力を乱暴に感じただけか。本人は細やかな扱いをしたつもりなのだろう、あれでも。
★★★
店が開いていれば海産物は直売できたんだが、とっくに閉まってた。
ただし店外に買い取りボックスがある。値段だけ確認しとくか。
……調べたら意外と高いな、メンダコ。他にもいっぱい獲れたから、全部を一度持ち帰って二階に運び上げた。
収納目当てで増築した納戸(サービススペースってんだっけ?)には、家具や服もさほど並べていないから荷物を広げるのも余裕のヨッチャンだぜ。
15リットルの円筒水槽に入れたメンダコを、真ん中に飾ってみた。なんだかご神体をタテマツった感が出る。
どうよ。住み心地は。
他の漁獲物は冷蔵庫か押し入れだから、特別扱いだぜ?
メンダコちゃんは、まばらな砂にぺたりと広がって埋もれている。ふ~ん、リラックスしている時はあまり泳がないのか。
遠近感を狂わせるLEDライトの中で、鮮やかに赤く染まり、ふよふよ耳だけ扇いでる。
フリルめいたタコ足をいじらしくまるめて「座って」いるとこはなんとなく上品にみえなくもない。
英名はアンブレラ・オクトパス。まさに傘の蛸か。
床に腹ばいになって催眠術みたいにふわふわ揺れる触手をながめた。
「おい、元気だせよ。
もっとハッスルしてみせな」
缶コーヒーもってきて、あと『図鑑』も。今日は、ここで寝てえな……。
★★★
タコのコメント②:
様子のおかしい人間に褒められ励まされたところで、不安や屈辱しかないのはなぜなのだろうな。いや、わかっている。言葉が通じず、反論すら封じられているからだ。
「おい、なにをするつもりだ!?」と言葉で散々問いかけたのに完全に無視された。なのに仕草には悪意がないから殴って逃げる気もおきない。
2024-06-11 18:23:00 +0000