どれだけの時が経ったのだろうか。
数十分、数時間、数日、あるいは数年後?
瞼を開く、という動作を意識はしなかった。
あたりを見回すと木々が生い茂っていた。
最期に見た光景……、己の処刑場となった場所とは似ても似つかぬ神聖さに、戸惑いは深まる。
…漸く最後の魂を見送ることができる。
男のようにも、女のようにも聞き取れる声。
私の姿を見れるのですか?
透き通った蒼い瞳が己を見つめる。
「私は…死んだの?」
ええ
「最後って?」
貴方が死んだ後、多くの生命も追うように。
「…どうして?」
少し言い淀む素振りをした後。
貴方の番によって。
実際には今は肉体を失い、魂の状態だと予想はすれども己の死後の村の顛末を聞き、胸が締め付けられる思いだった。
今も、討伐してくる人間を返り討ちにして、血で血を洗う争いに巻き込まれているらしい。
「私は…あの子が間違った事をしたら…止めると約束をしたの」
「お願い、貴方なら…何とか出来る?」
……ええ、生命神たる私なら。
しかし、それは永遠に等しい苦難の道を歩むという事。
狂気に陥った彼が正気に戻る保証もありません。
貴方と彼の彼我の力の差もあります。
それでも尚、私の力を欲しますか?
蘇る死の苦痛。
思い返す度に足が竦みそうだ。
けれど、あの子と交わした約束を反故にする理由にはならない。
神の言葉に是を返す。
……暫くの沈黙の後。
本来で在れば、個々の事情に私たちが介入することはありません。
ただ、多くの戦火によって産まれてくる命と死に行く命の総量が傾き始めています。
この先の未来でも差が広がるばかりです。
偶然にも貴方の身に宿った力は、傷を癒す力でしたね。
天秤を正す過程で、番の目を醒まさせるよう努力出来るでしょう。
…さぁ、お行きなさい。
ギル【illust/115707840】
2024-06-05 07:22:05 +0000