最近、この街で仮面を身に着けている人をよく見かけるようになった。
なんでも、隣国から輸入されたその仮面を装着すると格段に魔力が強化されるのだという。だから、魔術士とか神官とか、そういった魔法を使う者達を中心に仮面は流行の兆しを見せているようだ。
わたし達の国と隣国はずっと険悪な関係だった。歴史的にも何度も戦火を交えている。
でも、近年になって急速に関係が改善して人も物も行き来が盛んになってきている。この仮面もその一つなのだろう。
わたしだって魔法を使う者のはしくれだ。魔力を強化できる、と聞けばやっぱり興味は惹かれる。
だけど……仮面に関する不穏な噂もある。
隣国からもたらされた仮面には邪悪な力が宿っている、とか。
被ると自我を侵食され、やがては仮面に意志を乗っ取られる、とか。
隣国はこの国に呪いの仮面をバラまき、仮面の装着者を密かに手駒へと変え、時が来れば侵略の尖兵として使うつもりだ、とか。
わたしには判断がつかない。隣国に敵対的な感情を持つ人はいまなお多くいる。そういう人達が悪い噂を吹聴しているのかもしれないし、でも、もしかしたら……本当にそうなのかもしれない。
仮面に関する噂の真相を確かめる。そう言って冒険者仲間の彼女は姿を消した。もう、10日も前のことだ。
わたしなんかより実力も経験もずっと上の彼女のことだから心配はないと思うけど……すこし、胸騒ぎがする。
今日、久しぶりに彼女の後姿を見かけた。ああ、よかった。やっぱり無事だったんだ。
思わず小走りに駆け寄って呼び止める。けれど
振り返った彼女は、その顔は……無機質な仮面で覆われていた……
仮面に関する噂……? ええ、あんなものはすべてデタラメだったわ。
この仮面は素晴らしい。魔力が際限なく湧いてくるの。もう仮面を外すことなんてありえない……
彼女の言葉がひどく不気味に響く。そう感じるのは、声が仮面に遮られているせいだろうか。仮面に隠されて表情が窺えないからだろうか。
無意識のうちに一歩後ずさる。頭の片隅で警鐘が鳴る。
伸ばされた彼女の手がわたしの腕を掴んだ。
皆が仮面を被らないといけない……もちろん、あなたも……
逃がさない、とでも言うかのようにわたしを掴む手に力がこもる。
彼女のもう片方の手には、いつの間にか仮面が握られていた。
仮面がわたしの顔に迫ってくる……
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隣国サイド、およそ10年ほど過去⇒illust/119274327
2024-06-01 02:17:58 +0000