「大樹、みーつけた!」
涙でかすんだ視界に姉の笑顔が見えた。
「いつまでも泣いていないの、お姉ちゃんと一緒に帰ろ」
「…うん」
旧家で神職を務める家柄の故だったのだろう、跡取りである大樹への躾は厳しかった。
叱られて日が暮れても父と母が怖くて、御神木の影で泣いている大樹をいつも姉の美琴が迎えに来てくれたのだ。
「ほらほら、お姉ちゃんのお耳だよ~」
「わぁ」
「あはは。くすぐったいよ、もう、大樹ったら」
大樹は姉の頭からぴょこんと飛び出た、人には無いはずの狐の耳が珍しかった。
『狐憑き』
そう呼ばれた姉は運命に翻弄され続けた。
しかし決して笑顔を絶やさない、強くて優しい女性だった。
「姉さん、あの子達は俺が守るよ。それから待っていてくれ。必ず助けるから…」
つないだ小さな手のぬくもりを決して忘れはしない。
失われた自分自身の力はいつ戻るとも分からないが。
強く唇をかんだ大樹は、御神木に手を当ててそうつぶやいた。
【サクラとヒナとアカネとカスミ】
2024-05-19 02:05:04 +0000