(もうダメだ……!)
強化された狂骨に手も足も出ない。
ゲゲ郎と水木が思わず目を瞑ったとき、一つの影が二人を守るように現れた。
「――俺が30分稼ぐ! 早くあの人の元へ行け!!」
『こ、孝三さん…!!』
「ネズミの坊やを使って沙代に伝言を託した! 禁域への行き方はあの二人も知っている!
だからここは任せろ……――俺の代わりに、あの人を救ってくれ!!」
懐に隠し持っていたのか、数珠と水晶を取り出すと孝三は即座に結界を張る。
こういった神秘に不慣れな水木には分からなかったが、長い時を生きるゲゲ郎には分かった。
(こんな緻密で強靭な結界を張るなど……この者、只者ではない――ッ!)
「孝三さん、恩に着る! 行くぞ水木!」
「お、おう! 死ぬなよ、孝三さん!」
ゲゲ郎は水木を背負うと、バルコニーから飛び降りた。
行先は龍賀屋敷――沙代の元だ。
手負いの長田と病み上がりの孝三、両者ともに万全ではない。
しかし互いに高い水準での攻防を繰り広げ、高台と周辺の木々は力の周波で激しく揺れていた。
「こ、孝三様……貴方は我々裏鬼道衆が心を破壊したはず! 何故……!?」
「はっ! 確かに一度は破壊されたさ。だがな……曲がりなりにも俺は龍賀の者。
10年の時を掛け、散らばった心の破片を拾い集めながら――【反転・呪詛返し】の術式を編んでいたのさ!!」
「くっ……!」
「この命賭してでも、あんたを通さねぇ――ッ!」
孝三は、10年前助けられなかった女性を一瞬だけ思い浮かべ、数珠と水晶に一層力を込めた。
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破壊された心を、実は取り戻していたという展開には胸が熱くなりましたね。
まさかあの絵が、孝三さんが独自に編み出した呪符の役割を担っているとは思いませんでした!
2024-03-13 15:30:47 +0000