戦時中の悪夢によって、水木は目覚めた。
全力疾走した後のように呼吸が乱れ、借り物の浴衣が寝汗でじっとりと濡れている。
それだけでなく、何故か口の中がざらざらと渇いており、まるで粉塵を思い切り吸い込んだあとのようにも感じた。
人生で三つ折りに入るほどの、嫌な目覚めである。
「はあ、はあ……――って、は!?」
視線を周囲に巡らすと、自分は座敷牢の中で寝かされていた。
――否、座敷牢【だった】スペースで寝かされていた。
何故過去形なのかというと、牢の役目を果たすための格子一面がへし折られ、ぶち抜かれていたためである。
細かな木片が外へ散らばっているのが目視できたため、元々中にいた者――ゲゲ郎によって内側から破壊されたと推測できた。
(……口の中のざらつきは、木屑か!)
一刻も早く口を漱(すす)ぎたいが、他の村民に見つかる前にゲゲ郎を見つけなければならない。
彼が災い基(もとい)時麿の心臓麻痺と関係があるとは思えなかったが――そもそも非科学的だ――まだ彼を牢から出す許可を得ていないからだ。
大っぴらに出歩いていては、監視役を押し付けられた水木にも不利益が生じるだろう。
水木は朝霧に上手く身を隠しながら監視の目を盗み、ゲゲ郎を探す。
幸い昨日の雨で地面が酷くぬかるんでいたため、下駄特有の足跡を辿ることができた。
5分も経たず川辺にある野湯に浸かっている影を見つけ、急ぎ駆け寄る。
内容は聞き取れないが、ゲゲ郎は誰かと話をしているようだ。
(しかし、妙にこの周辺だけ霧が濃いな……)
「おーいゲゲ郎! ……って、なんだこの野湯! 煮えたぎっているじゃないか!」
「いい湯加減じゃよ。お主も入るか?」
「コ■す気か!」
見ると、野湯からはボコボコと酷い音を立てて泡が立っては消えている。
この一帯だけ霧が濃いのは、これが原因のようだ。
そんな熱湯の中、涼しげな顔をしてゲゲ郎は浸かっていたため、水木はまだ自分は寝ぼけているのかと不安になる。
「どちらかというと水で口ん中を漱ぎたい気分だ。誰かさんのお陰で、細かい木屑が大量に入ったからな!」
「はて何のことやら」
「……ところで、他に誰かいなかったか?」
「ほう、視(み)えたか」
「?」
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初見では何故野湯が煮えたぎっているのか分からなかったのですが、
何回か見ると一瞬だけ鶴瓶火さんらしきシルエットが確認できました!
あの屈強な体躯は恐らく鶴瓶火さんだけのはず……
鶴瓶火さんも一緒に浸かっていたから、ボコボコと沸騰していたわけですね。
2024-03-12 15:20:12 +0000