「……ゲゲ郎の奴、とんでもない速さで船を漕ぎやがって。
絶対俺の声聞こえてたハズなんだが……」
水木は禁域へ上陸すると、酸欠と急激な酔いで気絶した少年を浜辺に横たえた。
その傍には、勢いよく漕ぎすぎて大破したゲゲ郎のボート。
(帰りはどうするか……少年の船も途中で置いてきたし……
また走るしかないか……。……さてと)
先が見えない暗い密林に、昨日の雨でぬかるんだ地面。
双方に警戒をしながら、奥へ進んでいく。
うだるような暑さだ。
額やこめかみに浮かぶ汗の玉を、垂れる前に時折手の甲で拭う。
(なんだ……耳鳴りが……それに、頭痛も……)
一歩が、沼の中を歩いているように重い。
歩を進めるごとに、募る不快感。
汗腺と涙腺が壊れたのか、ぼろぼろと汗と涙が頬を伝う。
そして鼻にも汗が垂れたのかと指で拭うと、それは血だった。
(とにかく、ゲゲ郎を探さなければならない……あいつ、どこへ行きやがった……)
その一心で、暑さと寒気に体調を蝕まれながら、まだ水木は進んだ。
そして少し開けた場所へ出ると、地面に巨大な穴が開いている。
巨大な穴から、風鳴りのような、幾重もの悲鳴が響き渡った。
黒板に爪を立てたような寒気と、鼓膜がおかしくなるような耳鳴り、そして割れそうになるほど酷い頭痛。
それら全ての不調が、水木を錯乱状態に陥らせた。
「何だ……頭が……!」
≪グオーーッ!≫
――だから、仕方が無かったのである。
「うるせぇっ!」
――ガッ!
水木は背後から襲い掛かってきた“ナニカ”に気付きながらも、振り向くだけの体力はなかった。
だから――振り返らずに左拳を”ナニカ”に向け、思い切り突き上げたのである。
「水木!」
――少し離れたところで先住民の説得をしていたゲゲ郎が駆けつけると、
水木は鼻血を出し、正気を失いながらも妖怪へキツイ裏拳をお見舞いしている現場だった。
大丈夫か?というかけるべき言葉がぽっかりと失われ、ゲゲ郎が代わりに放った言葉は……
「荒事は止(よ)すのじゃ、水木――ッ!!」
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水上を疾走した水木なら、禁域も無双できると思いきや、霊障に苦しめられた水木。
凄く苦しくて辛そうで、その表情から「水木もやっぱり人間なんだよね…大丈夫かな…」と
思 っ て い た 時 期 が 私 に も あ り ま し た。
まさか背後から襲い掛かってきたムカデの妖怪に振り向かずに鉄拳をお見舞いするとは……兵隊上がり強い!
背後への警戒を怠らないの、流石でしたね!
でも霊障に苦しめられたら命の危険があるということで、この後彼はゲゲ郎に担がれて脱出です!
3/11...女性人気100位ランクインありがとうございます(`・ω・´)
2024-03-09 15:24:52 +0000