H@L『此処は我らが水神を祀る聖地………穢す事は能わぬ』
凛とした声が響き渡ると、魚人達の群れが二つに割れ、その奥から彼等の巫女が音も無く歩み出た。透き通るような肌に珊瑚色の髪、水底のような深い蒼の祭衣を纏った姿は、醜い魚人達の中にあってはかえって異質であった。
その感情を宿さぬ瞳に、簒奪者達は一様に喉を鳴らし、蛇に睨まれた蛙のようにその動きを止めた。しかし多少の胆力を持ち合わせた誰だかが、
「魚人共の巫女だ………捕らえれば高く売れるぞ……！」
そう掠れた声を張り上げた途端、呪縛が溶けたように手にした獲物を振り上げ、巫女の元へと殺到した。
———数分後、簒奪者達は一人の例外もなく物言わぬ姿と成り果てた。彼等の持つ剣も斧も矢も、何れもが巫女の操る水の盾を貫く事は出来ず、逆に一人また一人と魚人達の鉾に貫かれていったのである。
『………愚かな事だ』
静寂を取り戻した湖に、巫女の嘆息が響いた。
2024-01-28 14:42:19 +0000