その日、僕は見たんだ。
この目で確かに見たんだ。
幼い頃に聞いた昔話に出ていた
伝説の巨人を。
それは、僕がキュアウィングとして
空を駆け回っていた時だった。
空に逃げ出したランボーグを追いかけて、
遥か上空へと飛び立った時に、
僕はあれを見たんだ。
焔の様な赤い表皮に、
アオサギの様な長い頚。
槍の様な長く鋭い嘴と鶏冠。
無数の短い刺を生やした腹部に、
空を覆い尽くさんばかりの巨大な翼。
それは、スカイランドでも見た事が無い程の、
余りにも巨大な鳥、
いや、それはもはや鳥ですらない、
嘗て僕が幼き日に母さんから昔話で聞かされた
「空の巨人」と呼ぶに相応しい
異様な怪物だった。
その巨体も、その容姿も、
何もかもが昔話で聞いた物そのままだったんだ。
その空の巨人は、
僕の存在すら歯牙にもかけないかの様に
悠々と横切ったかと思えば、
突如として嘴からまるで火山の噴煙の様な
黒いガスを放ち、
ランボーグを一瞬で焼き尽くしてしまった。
そうして空の巨人は、
その巨体とは思えない速度で、
一瞬の内に天空の彼方へと消えていった。
一見すれば馬鹿馬鹿しい話かもしれない。
誰にも信じて貰えないかもしれない。
でも、僕は見たんだ。
昔話や神話の世界でしか存在しない筈の
空の巨人の勇姿を、
僕は確かに見たんだ。
当然ながら、ましろさんやあげはさんは
半信半疑で余り本気ではなかったけど、
意外な事にソラさんは信じてくれた、
ソラさんも、やはり幼い頃に
僕と同じ様に昔話で空の巨人の事は
知っていたらしい。
「私も昔、ママから聞いた事があります。
火の山から生まれ、
黒い炎で大地を焼き払い、
大空を覆い尽くす程の翼で、
天空を電光石火で駆け回る
空の巨人のお話を。
昔話だけかと思っていましたが、
まさか本当にいたんですね。
私も見てみたかったです」
空の巨人の事は、
スカイランドでは誰もが一度は耳にした
有名な昔話だけど、
後に調べてみたら、ましろさん達の世界でも
似たような話が幾つかあった様だ、
ある時は北海道と呼ばれる地で
アイヌ神話に伝わる巨鳥フリカムイとして。
またある時は中国という国の伝説に伝わる
空を覆い尽くす巨鳥大鵬として。
時には千夜一話に伝わる怪鳥ロックとして。
時にはアメリカ大陸に伝わる雷鳥サンダーバードとして。
でも、いずれも
あの空の巨人の本当の名前ではなかった。
更に調べ続けているうちに、
漸くあの巨人の本当の名前を見つけた。
それは、僕が昔話で聞いた
スカイランドに伝わる空の巨人と
同じ名前だった。
ギリシャという国の神話にも綴られていたその名前。
姿形はまるで違っていたけど、
紛れもなくその名前は、
あの巨人の物と同じ物だった。
形は違っていたけどこの世界でも、
空の巨人の伝説は確かにあったんだ。
あの空の巨人、ラドンの伝説は、
この世界でも確かに存在していたんだ。
2024-01-22 12:12:09 +0000