「まさかこんな感じで再会するなんてな、てかちゃんと年越し前には寝るんだぞ」
「いーやーでーす!死んでも起きてますからね、学生にとっての年末の特別感なめないでください」
大晦日を地元に戻らず過ごすトレーナーのLANEを鳴らしたのはヒシミラクルだった。友人と寮で年越しパーティーをするつもりだったが互いの認識に違いがあり、友人は実家に帰ってしまっていたらしい。暗い夜に実家に帰るわけもいかず、『トレーナーさん!こっちにいるらしいですね!お願いしますお邪魔させてください(泣)』とのことだった。
「ちなみに年越しそばってあります?えび天も」
「人ん家に押しかけといてえらく強気な・・・あるけど」
年末特番をつけ、トレーナーの隣で彼のブランケットの3分の2を使うヒシミラクル、ここから動く気はさらさらないらしい。仕方なく抜け出そうとするとそれまでお祭りのように盛り上がっていた歌番組は終わりを告げ、新年の鐘を鳴らす寺の映像と共に厳かな空気になり始めた。
「そういやこっからも除夜の鐘って聞こえてくるんだよな、ちょっと音量さげるぞ」
音量の減少とともにこの場を含め、周りは少しばかりの静けさに包まれた。
これはこれで何かきまずいかも、と思った矢先、ヒシミラクルが口を開く。
「トレーナーさん、ありがとうございました。今日の事もそうですけど、レースのこと。こうしてトレーナーさんと年を越すことができたのも、トレーナーさんと会えたから。…トレーナーさんがあの時口説いてなかったら今頃ひとりぼっちでしたよ~」
「いいや、感謝をいいたいのはこっちだよ。俺だってG1トレーナーは子供の頃からの夢だった。それには自分の力だけじゃなく、協調できるパートナーが必要だ。君は俺の夢をかなえてくれた。本当にありがとう」
「…もう、トレーナーさんは本当に私のことが大好きですね~」
「もちろん。俺にとって最高のウマ娘だ」
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(…もう、空気がきまずくて話題ふっかけたのに、ますます変な雰囲気になったじゃないですか!)
いじらしい気持ちを心の中にとどめ、ホットココアを啜りながらテレビを見つめる。
…感謝、だけじゃない。
たま~に耳にする恋愛談、その意味が分かった気がする。一緒にレースに向けて切磋琢磨して、時には甘く、時には厳しく。いつまでもうじうじしていた私の『覚悟』を彼は後押ししてくれて、目もくらむような栄光を与えてくれた。そんな人に向ける感情は、決して感謝だけじゃない、って。
でも、一線は引くつもり。大人と子供、教師と学生、彼はきっとそうする人。優しいから、私が何か言ったところでもっといい人がいるとか、経験がたりないからそう見えるだけとか言って離すだろう。でも…
ぴとっ
ココアをテーブルにおいてブランケットの中に入れた私の手が、彼の手とぶつかった。「あ、すみません」と言う前に彼が体を少し跳ねさせながらその手を勢いよく引く。そっぽを向いた彼の耳は、ほんのり赤みがかっていた。
……、おや、おやおやおや?
トレーナーさんが照れてるの、初めて見たかも。自分で作った空気にあてられたのかもしれない。それとも気まずさからいつもの二人の雰囲気に戻そうとしたのかな。私は彼の腕に抱きついた。
「トレーナーさん、もしかして照れちゃってますね~???誰も見てませんし大晦日なので、今年がんばったご褒美に私を好きに愛でる権利をさしあげよう~!!」
この後の展開は分かってる。調子に乗るなと頭に一発。「いでっ」と言ってそれで終わり。しかしその時はいつまでも来なかった。ふと顔を上げると、さっきよりももっと向こうを向いていて、その耳は今にも沸騰しそうなくらい赤くそまっていて…
「…そういうこと、あんまり言わないでくれ、あと、抱き着くのも。…君は…かわいくて…勘違いするから」
ああ、この人は。
いつもそう。かっこいいとこ見せたら、すぐこういうこと言う。
…心に留めるなんて、できないじゃないですか。
ずっと、この気持ちは一方的なものだと思っていた。彼は絶対認めないって。やんわり回避してそれで終わりって。
それは正しいのかもしれない。けれど彼の本心は関係がない。
…感謝だけじゃない。そしてそれは、彼だって…
「トレーナーさん」
ぼそりと呟く。二回目はこっちを見ようとしない彼の頭をつかんで、無理矢理振り向かせた。
その顔は、私なんかとは比にならないくらい、赤い。目は新年の方を向いていて、目を合わせられないって感じ。
「今年もお疲れ様でした」
彼にはたくさんの「覚悟」を貰った。だから今度は私が返す番。
鼻がくっつくような距離で、彼から教わった一歩の踏み出し方を…
「お互いが感謝してますから、お互いが貰ってうれしいご褒美、あげちゃいますね」
前向上としては不格好かもしれない。でもそれが私らしい。彼の唇に私のを合わせて
そういや話変わるんすけどフェアリーステークスはキャットファイト、シンザン記念はショーマンフリートで行こうと思います。
キャットファイトは前走後手を踏んでしまいましたが能力は高い、前目につけるのが上手い坂井騎手とは手が合うんじゃないかと思います。
ショーマンフリートも似たような感じですね。スワーヴリチャード産駒が最近話題なので、人気馬ですがこの一発にかけようと思います。
2024-01-07 04:44:10 +0000