ベリナスとアサカ

タニオ

ーーとある国の領主であるベリナスは、
召使いで倭人であるアサカと共に街を歩いていた。

妻や古くから仕えていた召使いのマリアを亡くし、
働き手を探す為、奴隷市場へと向かっていたのだ。

アサカも奴隷であり
幼い時に、市場で泣いている彼女を憐れに思った召使いのマリアが連れてきてからの付き合いである。

元奴隷であり、それをこころよく思わない彼女はベリナス
に「人の売り買いは好きじゃない、見るのも嫌」と訴える。

そんな彼女にベリナスは静かに言葉をかける。

「…花はいいのか?」

ベリナスの言葉にアサカは先程何気なく摘んだ道端の花に
目をやりハッとする。

「…召使いを選ぶのと、花を摘むこと、どこが違う?」

ベリナスは彼女に問いかける。
その言葉に答えられないアサカ。

そんなアサカに優しい眼差しを向け、ベリナスは
彼女の髪に花を挿す。
二人は打ち明けてこそいないが、お互いを想い
あっていた。
しかし、身分の違い、立場の違いが長年彼を縛り付け、
気持ちを打ち明けられずにいた。
それは、この先もずっと変わらないだろうと彼は考えていた。

ベリナスはアサカに言葉をかける。

「こうなる事が、この花の『運命』だったんだーー」

ーー運命?

自らの言葉に疑問を抱くベリナス。

『運命』とは何だ?
妻やマリアが死んだのも、
戦で父や多くの仲間が死んだのも『運命』だったのか?
こうして起こっている全ての事柄も、
自分が今、ここにいることも、
『運命』の賜物なのか…?

…アサカと出会ったのも…!

答えなど出る筈もなく、市場へと辿り着くベリナスで
あったが運悪く奴隷は売りにだされていなかった。
アサカはどことなく嬉しそうであった。

その夜。

寝室で眠りについていたベリナスは、部屋の中に禍々しい気配を感じ飛び起きる。

そこにはおぞましい気を放つ死霊がいた。

咄嗟に身構えるベリナス。

その時であった。

まばゆい閃光が部屋を包み、何も無い空間から、鎧姿の
女性が現れ死霊を切り捨てる。

突然の事態に戸惑うベリナスであったが、
女のいでたちを見てある言い伝えが頭に浮かぶ。

死者の魂を選定し、神々の兵士とする女神。
戦乙女ヴァルキリー。

戸惑うベリナスを気にする様子もなく戦乙女は彼に声を
かける。
「…この屋敷は不死者に呪われている。
娘が危ない。」

?!

その言葉を聞くや、ベリナスは弾かれたように
部屋を飛び出す。

(アサカ!!)

息を切らせ、彼女の部屋に入るベリナスが目にしたものは
冷たい床に横たわるアサカであった。

咄嗟に彼女を抱き抱え声を掛けるが、
既にアサカの身体からは温かさが失われていた。
(遅かった…!!)
目の前が真っ暗になる。

呆然とするがふと気配を感じ振り返ると
女神ヴァルキリーが立っていた。

「お願いだ!!彼女を助けてくれ!!」

ベリナスは必死に女神に訴える。

「もはや、手遅れだ。
何者も、運命に逆らう事など出来はしない。」
女神は無表情に彼を見据え冷たく言い放つ。

「……『運命』だと…?」

ーその言葉を聞いた途端、
神を信じ、己の立場、役割を守り続けてきた男が
ずっと抱えていた想いが吹き出した。

「…そんなもので、全て割り切れるものかっ!!!!!」

自らの腕の中で冷たくなってゆく、アサカに目をやり
ベリナスは力無く呟く。

「愛しているんだーーーー」

それは、決して口に出すことの出来なかった
彼女へ対する想いであった。

「…方法が全く無いわけではない。」
静かに彼を見下ろしていた女神が口を開く。

「!! なんでもする!!
教えてくれ!!」
ベリナスは答える。

彼の覚悟のこもった訴えに、女神はベリナスにその方法を
伝える。

『ーー換魂の法』

すなわち、死んだ者の身代わりとなり死者を生き返らせる
術。
しかし、それを行うと、ベリナス自身が死ぬ事になると。

ベリナスは迷わなかった。
それを承諾した女神は換魂の法を二人におこなう。

ーーベリナスは己の腕の中で目を閉じる、
愛する女性に目をやる。
これが今生の別れになるだろう。

これまでの想いが去来する。
…『運命』などに、いや、己に縛られず、もっと早く想いを
伝えていれば、こんな結果になどならなかったのだろうか?

「…立場に縛られて、私は、何も言えなかった。」

彼の最後の言葉は、愛する女性、そして己に対する後悔の
言葉であった…。

ーー暗く、静かな屋敷の一室でアサカは目を覚ます。
自分は一体どうしていたのだろうか…?
夢をみていた気がする。
はっきりと覚えていないが、自分の事を暖かい何かが包んでいた。
それは、自分に何かを語りかけ、それを聞いた自分は
とても幸せな気持ちになった気がする。
ふいに、あの方の事が頭に浮かんだ。
その途端、彼女の目から涙が一筋、溢れ落ちた。

突然の事に驚き、苦笑しながらも、指で涙を拭う。
その時、視界の隅に何かが写った。

目をやると、そこには、自分の愛する人が
目を閉じ、静かに横たわっていた…。

女神は彼女をみつめ、そして自分の中にいる男の魂に
声を掛ける。

「…一緒に、生きましょう。」

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2024-01-03 18:13:20 +0000