あれは、幻だったのだろうか?
その日、私は休日のジョギングをしに
浅草に出ていた。
ジョギングの途中、唐突に酷い夕立に見舞われた私は
咄嗟に近くの地下鉄の入り口に逃げ込んだ。
夕立も収まり、再びジョギングをしに
隅田川沿いに走ろうとした時、
私は「それ」を見た。
キリンとも馬ともつかない、
太古の恐竜である竜脚類にしては
無機質で華奢にも見える
余りにも鋭角的で異質なシルエット。
全身がまるで金属で出来ているかのような鉛色に輝く表皮に、
金属を擦り合わせたかのような
鳴き声とも肉体の軋む音かも判別がつかない
異様な金切り音。
そして、何よりも我が目を疑ったのは、
向こうに見えるスカイツリーを凌駕する
余りにも巨大なその体。
その途方もない山の様な巨体を支えるには
余りにも華奢なその4本脚を、
ゆっくりと、しかし大幅に動かし、
蛇の如く長い首をうねらせ、
虫の触覚にも似た長い角を振り、
鞭の如き細長い鉄の尾を振るいながら、
「それ」は東京の街を跋扈していた。
あれは何なんだ?
生物と呼ぶには、余りにも無機質で、
機械と呼ぶには、余りにも生物的で、
そして何よりも、余りにも巨大過ぎた。
学者どころか、ただの女子大生に過ぎない私の頭脳では、
余りにも理解し難い光景を、
余りにも異質な「それ」の正体すら
到底解明すら出来ないであろう。
余りの光景に呆気に取られている間に、
「それ」は、唐突に私の目の前から消えた。
忽然と姿を消した。
まるで蜃気楼の様に、
夕立の後の虹の様に、
唐突に私の目の前に現れ、
唐突に私の前から消えた。
あれは何だったんだ?
あれは本当に現実に実現したのか?
それともただの幻だったのだろうか?
或いは私だけに見えた幻影だったのだろうか?
結局、「それ」の正体すら分からないまま、
私はただ呆然と立ち尽くすだけだった。
2023-12-25 10:33:33 +0000